酒蔵「仁井田本家」に学ぶ、100年後を見据えたビジネス

100年後のために、今、何をすべきなのか──。これからの社会にどう貢献するかはすべてのビジネスの基本だが、このような考えで日々の仕事に邁進できているかというと、自信がない方も多いのではないだろうか。

地球の持続可能性を視野に入れてビジネスを行うことが当たり前になった昨今、特に長期的な視座や視点をどのように持つかが鍵となる。今回、そのヒントを得るべく、福島県で300年以上続く酒蔵、仁井田本家へ取材に赴いた。

仁井田本家があるのは福島県の郡山市。磐梯山や猪苗代湖などの豊かな自然の恩恵を受けながら、東北の拠点都市としての機能を果たす、魅力溢れる街だ。駅から酒蔵へ向かう道すがら、まず出迎えてくれたのは、水田に設置された「金寳自然米栽培田」の看板。聞けばこの田んぼ、仁井田本家が自ら耕しているという。


自然栽培で米を育てている自社田。辺りは昔ながらの日本の田園風景が広がる

「私たちは“日本の田んぼを守る酒蔵になる”というミッションを掲げていて、自分たちでお米を育てています。酒造りは、お米のポテンシャルによって変わります。やはりピュアなお米は、美味しいお酒を産むんです。それに、日本は田んぼあっての国だと考えているので、田んぼをとても神聖なものと捉えています」

酒蔵の多くは、農家さんから“酒米”を仕入れ、それを原料に日本酒を造る。しかしながら仁井田本家は、酒の味を左右する米は、手間暇かけてでもこだわりたいという想いが強く、自分たちで育てている。彼らが作っている米は、福島で最も古い酒米のひとつ、亀の尾を使った自然栽培米。農薬や化学肥料を一切使わず、自然が生み出すピュアな米だ。

「農薬や化学肥料を使用すると、一時的に生産量は増えるかもしれませんが、長期的にみると田んぼがどんどん疲れて、本来の力を失っていきます。より良い自然の循環を紡いでいくには、田んぼを守る必要があり、それは私たちの生活を守ることでもあると考えています。また、自然栽培でお米を育てることで、生き物もたくさん集まってきて、生物多様性が保てるのも魅力です」

田んぼには虫が来て、その虫を食べに鳥がやってくる。田んぼの排水にも余計なものが入っていないので、川もきれいになって魚も増える。それを狙って大型の動物も来る。そういう自然の循環が、地域や自分たちの財産になる、というのが仁井田本家の考えだ。

「豊かな自然環境を次の世代に残してあげるというのも、今を生きる我々の大事な使命ですから」と、18代目の蔵元 仁井田穏彦氏は語る。
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文・写真=国府田淳

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