しかし、コロナ禍はBAKEにも大きく影響し、特に人の密集しやすい場所や人流の減少が見られる店舗は閉鎖を余儀なくされた。厳しい状況の中でもオンラインでの販売や、買ってもらうための「仕掛け」に注力し、消費者の期待に応え続けている。
「私の仕事は、商品の魅力を真っ直ぐ、愚直に、お客様に届けることです」
こう語るのは、ベイクチーズタルトのマーケター、鈴木智恵だ。
ファンが何を考え、何を発するのか。
ベイク チーズタルトは、東京でまたたく間に「行列のできるタルト屋さん」になったが、実は商品ができた当初は全く売れなかったという。
もともとチーズタルトは、BAKE創業前の歴史あるパティスリー「きのとや」の一商品として冷凍で販売されていた。それを、BAKE創業者の発案で、店頭で焼いた「焼きたて」を鉄板のまま陳列して販売するように変えると、途端に行列ができるようになった。ガラス越しに伝わる、焼き上がるまでのライブ感と香りが人目を引いたのだ。
店舗の大小はあるが、ライブ感で呼び込むスタイルは全店舗同じだ。
「この原体験が、私のマーケターとしての考え、そして美味しさを届けるためのアプローチを日々模索する姿勢につながりました」
鈴木が入社した2018年は、続々と新店舗をオープンさせているタイミングだった。その時々の旬の素材を使った、期間限定のフレーバーを発売するようになったのもこの時期からだ。時には、タルトの金型以外の全てを一から作り上げることもあるというほど、大掛かりな新商品開発を毎月継続して行うチャレンジングな日々。調整が難航し、販売の直前までまとまらなかったときのことを「ハラハラ、ドキドキの毎日」と振り返る。
マーケティング担当の業務内容は、プロモーション施策の立案やクリエイティブのディレクションなど多岐にわたるが、総じて鈴木が担っているのは、商品と消費者のつなぎ役。商品開発担当が考案したこだわりの一品を、どのように伝え、どう売っていくかの戦略を練る。
「ベイク チーズタルトは、贈り物や手土産として購入されることが多いのですが、それに至るまでには、色々な感情の変化があるはずです。私たちのブランドを通して、お客様に何を感じていただきたいのかに重きを置いて、コンセプトを作っています」
何を感じていただきたいのか───これが鈴木が心掛けていることだ。企業側のメッセージを一方的に送りつけしまうのではなく、消費者が中心となるコミュニケーションの実現だ。
「この考え方は、資生堂のスキンケアブランド『BAUM(バウム)』を見て、改めて大事だと気付かされました。社会貢献を唱えることがコミュニケーションのメインになるケースが増えているなか、BAUMは、コンセプトや店頭の雰囲気、パッケージのデザインから『サステイナブル』が自然と自分に馴染んでくる感じがします。従来の機能性の訴求ではなく、あえて情緒的な価値観に振り切ることで、心の健康が美しさの土台なのだと感じられるコミュニケーションが素敵ですよね」