酒類自粛を追い風に進化する「ノンアルコールペアリング」の世界

恵比寿「レクテ」が開発したノンアルコールペアリング


さて、アルコール愛好家はこの期間をどのように過ごしているのだろうか。

シャンパンやウィスキーのアンバサダーを務めるなど、世界の上質な酒に精通する美食家であり、「世界のベストレストラン50」の評議委員長を務める中村孝則氏に話を聞いた。


「セザン」のプレビューで、エゾジカのローストに合わせて提供された「ノンアルコールサングリア」を持つ中村氏

仕事柄、「普段からレストランで酒と共に食事をとることも多く、健康診断などの特別な理由がない限り、毎日アルコールを楽しんでいた」という中村氏だが、酒類提供自粛を受けて店で酒を飲まなくなり、約30年ぶりにノンアルコールの日を設けるようになったという。夜早く就寝することで朝型になり、生活スタイルにもメリハリが出たと話す。

さらには、「これまでは必ずアルコールペアリングをオーダーしていた」店で初めてノンアルコールペアリングを楽しんだことで、新たな可能性も感じるようになったという。

「従来のアルコールペアリングは、ワインならぶどう、日本酒なら米と、限られた材料で作られます。しかし、ノンアルコールは、自由に食材を使えるため、より幅広い表現が可能」と語る。

中村氏は大日本茶道学会の茶道教授でもあり、世界的にティーペアリングを出す店が増えてきているトレンドにも注目。「日本には、日本茶という誇るべき文化がある。茶葉の産地や製法の違いのみならず、茶せんで点てる抹茶、急須で淹れるお茶、さらには水出しまで提供方法も様々。もっと追求すれば、日本独自のティーペアリングが生まれ、ノンアルコールペアリングの最先端を日本から発信することもできるはず」と考えている。

取材したのは、7月1日にフォーシーズンズホテル東京丸の内にオープンする「セザン」のプレビューの場。そこでは、アジアで4位に輝いた気鋭のダニエル・カルヴァートシェフによる料理とノンアルコールペアリングが提供されていた。

個人的に非常に印象深かったのが、サバをマリネした料理とノンアルコールのモヒートの組み合わせだ。



青背の魚は特に、鉄分の多いワインと合わせると化学反応で魚臭さが出てしまうため、ペアリングが難しい。しかし、ノンアルコールモヒートがキンと口の中を冷やし(この感覚を実現するには、シェイクのカクテルが出来立てで届くことが必須)、ミントの香りを加えることで、サバの味の良い部分だけを感じておいしくいただけた。これは、アルコールの提供が再開しても、あえて頼みたいペアリングだと感じた。

ワインは基本的に提供温度が決まっているが、こんな風により自由に温度を選べ、口の中での印象を幅広くコントロールできるのも、これからのペアリングの面白さと言えるだろう。

今回の酒類提供自粛で、レストランでの新しいドリンクを考案している飲食店も多い。アルコールの生産者を「家飲み」で支えつつ、外食の際には、レストランのたゆまぬ努力で進化するノンアルコールペアリングを楽しむという形も広がっていくかもしれない。

文=仲山今日子

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