新たにノンアルコールペアリングを打ち出したのが、東京・代官山にあるミシュラン一つ星のフランス料理店「recte」だ。これまでも、自家製のジンジャーエールなどのノンアルコールドリンクはあったが、顧客の8割がワインを注文することもあり、ペアリングでは提案してこなかった。
フランス産ワインに合う“香り”を大切にした料理を生み出してきた佐々木直歩シェフは、「これまでも料理に使う食材を抜き出して自家製のジュースを作ってみたことはあったが、当たり前に合いすぎて、ワインが料理に与えるような相乗効果や味の輪郭を際立たせることができなかった」と話す。
しかし、今回の自粛を受け、以前から温めてきた6杯のノンアルコールペアリングの提供を開始した。
開発を担当した支配人でソムリエの横山信氏は、特に気を使ったのが、糖分の調整だと語る。市販でも、ワイン用のぶどう品種を使ったジュースなどが存在するが、料理との相性を考えると甘すぎたり、日本に出回っているブランドが少ないため、他店との差別化が難しい。それならば、自分たちで、料理に合わせた「ノンアルコールワイン」を作ろうと考えた。
例えば、ホワイトアスパラガスのヴァン・ジョーヌソースには、実際の赤ワインにきび砂糖を入れて煮詰め、アルコールを飛ばしたシロップにゴボウ茶を加え、土っぽさ、熟成感のある赤ワインの味わいを再現したドリンクを用意した。この他、炭酸水を加えることで料理の脂分をすっきりとさせる工夫をし、リースリングやシャルドネ、サングリアなどをイメージしたドリンクを作った。
ノンアルコールドリンクは、自由に味の調整ができるという利点がある。対話の中で、ゲストの好みに合わせたアレンジができ、よりゲストの好みに寄り添ったサービスができるのも魅力だ。
以前、ワインペアリングを頼んでいたのは全体の3割ほどだったが、ノンアルコールペアリングも、同じくらいの割合で注文が入る。また、単品で水以外のノンアルコールドリンクをオーダーする人は、全体の9割に達するという。
特に、若い世代が「面白そう」とノンアルコールペアリングをオーダーすることが多く、最近のソーバー・キュリアスの流れも相まって、「ワインが好きで選んできたが、ワインと同じ味でノンアルコールならそちらの方が良い」という声もあるという。
また、ワインペアリングであれば、recteでは一人あたりボトル半分程度のワインを提供するが、「ワインを飲みたいけれどアルコールはあまり強くない、という方に、ワインペアリングの一部をノンアルコールドリンクに置き換える、ミックスペアリングという提案もでき、サービスの幅が広がった」(横山氏)と、自粛が解除されたあとも提供を続けようと考えている。