そうした中で注目したいのが、ロシア軍特殊部隊が実践してきた教育メソッド「システマ」だ。世界45カ国、250以上の団体で取り入れられ、最近ではNHKの医療ドラマ「ディア・ペイシェント」で主人公の女医が習っていたことでも注目を集めている。
その高いメンタルマネジメント効果からオリンピックで活躍するアスリートや一流企業のエグゼクティブたちも活用している「システマ」から学ぶことができる “逆境に強くなる心の持ち方や思考法” について、システマ東京の代表で公認システマインストラクターでもある北川貴英氏に話を聞いた。
なぜ、門外不出だったロシア軍の奥義が一般層にまで広まったのか?
システマの創始者、ミカエル・リャブコ氏(写真提供:北川貴英)
システマとは、ロシア軍特殊部隊の将校、ミカエル・リャブコ氏がロシアに古くから伝わる武術を現代向けにアレンジして考案したトレーニングシステムだ。
その卓抜した効果から、かつては軍事機密とされていたが、冷戦終結後に一般公開されると、武道愛好家や軍隊・セキュリティ関係者の間で評判となった。その後、メンタルマネジメントに効果があることが知られると、アスリートやビジネスパーソンにも注目されて瞬く間に世界各国に広まっていった。
現在では、子どもからお年寄りまで、さまざまな層の人たちがシステマを学んでいるが、その大きな理由として、「日常生活において、すぐに役立つ」メソッドであるということが挙げられる。
「ヨガやマインドフルネスなど、メンタルにアプローチするメソッドはたくさんありますが、そのどれもが静かな環境を整えてから学ぶというスタイルを採用しています。しかし、現実はそんな穏やかな状況ではなく、すごくストレスフルですし、ノイズもたくさんありますよね。そうした環境下で、いかにリラックスをして自分のパフォーマンスを発揮するかに着目しているのがシステマなのです。
実際のシステマのトレーニングで学ぶことができるエッセンスは、仕事でミスをして動揺してしまったときや、クライアントからの無理な要求で怒りに心が支配されてしまったときなど、あらゆる日常生活のシーンで応用させることができます」(北川氏)
軍隊格闘術がルーツであるシステマは、至上命題として「生き残ること」を掲げている。銃弾が飛び交う「戦場」という極限状態における勝者とは、相手を打ち負かすことができる人でも、何かを破壊できる人でもなく、生き残ることができた人なのだ。
そのために必要となるのが、どのような状況でも心の安定を保ち、心身ともにリラックスさせる技術。その技術獲得を目的に考案されたシステマは、どんな逆境にも負けない、強い心をつくるための最強の訓練方法ともいうわけだ。
こうしたシステマのアプローチが、ストレスフルな環境に生きる現代人に役立つことは言うまでもない。日々の疲れを癒し、明日への活力を養う上でも、システマは大きな可能性を秘めている。