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シネマの女は最後に微笑む

傷を抱えたなお子が最後に見つけるものは(c)2010 映画『パーマネント野ばら』製作委員会

SNSでは中傷やデマが拡散されやすいが、その反面、「辛い気持ちを誰かに聞いてもらいたい、できれば共有してほしいと思った時に、吐ける場所があって良かった」と感じている人も少なくないだろう。

身近な人に打ち明けて心配されるより、名も知らない、しかし同じ体験をしている誰かから共感の言葉をもらう方が、気分的に楽ということもある。多くの人から慰められれば、癒しにもつながる。

苦しみを何らかの言葉にし発信することは、その人が苦しみを対象化し、恢復へと向かおうとしている証拠だ。逆に、あまりにも深い傷を負った時、人は無意識にその現実を認めることを拒否してしまう。

そのような状態は、SNSでは決してわからない。その人を現実空間で注意深く見守っている人でない限りは。

西原理恵子の漫画が原作の『パーマネント野ばら』(吉田大八監督、2010)は、そんな人々の優しさが沁みてくる良作である。

机に突っ伏して居眠りしているなお子(菅野美穂)を、幼い娘のももが起こしにくるところから物語は始まる。なお子はシングルマザー。生まれ育った小さな漁村を結婚で一度離れたが、離婚して戻り、今は母まさ子(夏木マリ)の経営する美容院「パーマネント野ばら」を手伝っている。

おっとりしたなお子と比べると、母は遣り手で気が強い。そのせいなのかどうか、なお子の父ではない何人か目の夫カズオ(宇崎竜童)は、別の女の家に入り浸っている。

一様に強いパンチパーマを当てた、「野ばら」に集まる中高年の女たちも、まさ子同様キャラが立っている。そこで交わされる男、いや「ちんこ」をめぐるあけすけ過ぎる会話は、下品さよりむしろおばさんの野生を感じさせて笑いを誘う。

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(c)2010 映画『パーマネント野ばら』製作委員会

なお子の幼馴染みのみっちゃん(小池栄子)は、フィリピンパブのママ。金髪に派手なメイクで元気のいいみっちゃんだが、夫はヒモ状態なのに妻の前で店の女の子を口説き、とうとうキレた彼女は自動車事故で夫を巻き添えにして入院する騒ぎとなる。

早朝、松葉杖で現れた夫につい万札を渡し、その後ろ姿を見送りながら立ちすくむ場面は哀しい。大怪我をさせられても結局妻に金をせびりに来る男、ダメ男と重々わかっているのに引き止めておきたい女。落ち込みも激しいが立ち直りも早い、カラッとしたキャラクターのみっちゃんの中の、意外な脆さが印象づけられる。

もう1人の幼馴染みは、ともちゃん(池脇千鶴)。これまでつきあった男に必ず暴力を振るわれているという悲惨な過去をもち、やっと出会った殴らない男はギャンブルにハマって身を持ち崩し、彼女の前から消えてしまう。

そこまで男運に見放されているにも関わらず、いつもニコニコしていてどこか鈍重ささえ感じさせるともちゃんが、飼い猫の死に号泣する場面は、友人のなお子の前だからこそ感情を素直に表現できたのかもしれない。

なお子の異常さと「死」の輪郭


女たちはそれぞれまともな男を探しているが、周囲にいるのはダメ男ばかりであり、女の方が強く逞しく見える一方で、女が男に殴られる風景も日常としてある、そんながさつな港町とそこに生きる人々の姿が、コメディタッチの中から浮かび上がってくる。

個性の強い面々に囲まれた中で、なお子だけははみ出た部分のない大人しい女に見える。彼女の秘密は、高校の化学の教師カシマ(江口洋介)とつきあっていることだ。

文=大野 左紀子

映画
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