では、「振り」と「受け」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
先ほどの例文を「振り」と「受け」に分割すると、次のようになります。
【振り】
会社が大きな成長を遂げるきっかけとなった、社長の決断。
それは!
【受け】
「社員全員の給料10%アップ」
この文章で強調したいのは、「社員全員の給料10%アップ」という部分です。「受け」の部分には文章の中で最も強調したい言葉を配置します。
その前の「振り」とは、「受け」を説明する言葉と、「振りワード(例文では、それは!)」をセットにした部分のことを言います。
強調したい言葉の直前に、説明と「それは!」や「そこで!」の振りワードを配置する。これが、「振り」と「受け」の構造です。
ちなみに、代表的な振りワードには、「それが!」「それは!」「そこで!」「そして!」「さらに!」などがあります。
この「振りワード」も、全て馴染みのある、ありふれた言葉ですよね?
やはり、そこがポイントなんです。多くの人は、自然にテレビ番組の“見方”を習得していますから、「それが!」「それは!」などの振りワードがくると、「あ、この直後に大切なポイントがくるんだ!」と無意識に認識し、意識をテレビに集中させます。
たとえば、皿洗いをしながらテレビを観ていたとしても、画面から「それは!」という振りワードが流れてきた瞬間に、手を止めてテレビに注目します。
スマホをいじっていても、「それが!」というナレーションが流れてくると、手を止めてテレビ画面を観ます。そしてテレビから、ディレクターが最も伝えたい重要な「受け」のコメントが流れてくると、「なるほどね」と納得し、また皿洗いやスマホに戻るわけです。
実は、テレビ番組は、「振り」を使って「ここ大事だよ!」とサインを出して画面に惹きつけ、「受け」た後で休憩させ、また「振り」で惹きつける……。このパターンを繰り返しているのです。
適度に休憩させながら、大事なところはしっかり惹きつける。これによって視聴者は自分の頭を使わなくても番組の内容を把握することができます。
テレビ番組に比べて、ユーチューブ動画の尺が短い理由はなぜか、その答えがここにあります。
ユーチューブ動画は、長く観続けることが苦痛だからです。
ユーチューブの動画は、長く観ていると疲れますよね。それに比べて、テレビ番組は疲れずにずっと観られる感じがしませんか?その大きな理由の1つに、「振り」と「受け」の有無の違いがあるのです。
ユーチューブにアップされた動画の多くは、この構造がないため、メリハリがありません。そのため、ずっと注視していなければ、話の流れをつかめないうえ、大切な部分を見逃してしまいます。
大事なポイントを視聴者自身が考えながら見つけなければいけない(=気が抜けない)。だから、長時間観ていると疲れてしまうのです。
このような経験から、無意識のうちに短めの動画が選ばれるようになり、結果的に動画の尺が短くなったと考えられるわけです。