中西金属工業(大阪)と開発したagbeeは、農作業者の追従走行のほか、呼びかけての操作、ルート学習もする。1台150万円。
近年、奥出自身もデザイン思考を農業の分野で実践している。精密機械ながら、重量物や悪路をものともせずついてくる、機械学習を備えた“相棒”の開発だ。
「農業を調査したら、楽しさや面白さがわかった。でも、農作業そのものはつらい。井関農機やクボタなどは農作業の工程の最初と最後に入るものの、途中には入らない。そこを助けるロボット台車『agbee(アグビー)』を理論通りMVPからつくり、展示会に出したら大人気に。アーバンファーミング(都市型農業)の国内市場は、都市農家がおよそ55万軒。そのうち1%弱をユーザーとして獲得できると見積もり、30〜40億円の売り上げが目指せると考えて事業化しました。農業用以外に、工場内で稼働する派生モデルも並行開発しています」
土に触れ、文字通りのフィールドワークを通じて思い描くのは、AIと人間が手を携えて共創する社会だ。
「畑で半年ぐらい観察すると、家族連れの小さな子が徐々にお手伝いできるように成長していった。畑をやることの教育効果はかなりのもの。agbeeのような存在が普及して農業のネガティブなイメージを取り払えたら、どんな楽しい世界が来るのか楽しみです」
おくで・なおひと◎慶應義塾大学名誉教授、オプティマ代表取締役、agbee代表取締役。1954年、兵庫県生まれ。専門は文化人類学、現象学、メディア環境論。『デザイン思考と経営戦略』ほか著書多数。東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、LINEみらい財団理事長。