経済・社会

2021.05.12 07:00

日本人なのに帰国拒否? コロナ禍に空港で起きた「ありえない対応」

コロナ禍で閑散とする成田国際空港。4月に国内2空港で日本人が入国できず、送還される事態があった(Getty Image)


(1) については、先述の通り検疫法5条から「上陸拒否」(今回でいえば空港内や検査施設内に留め置くこと)は読み取ることができますが、国外追放までを許可したものと読むことはできません。また憲法には規定がありませんので、今回の追放・送還措置は自国に戻る権利を「恣意的に」奪ったものと解することができます。
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また (2) 目的と比べて妥当かつ合理的だったかについては、日本国内での公衆衛生を担保する上で、国外追放しか手段が無かったのか、代替措置がなかったのかどうかが一つの判断材料となるでしょう。すでに述べた通り、その二人が陰性かどうかは空港内の検疫で検査して再確認すればよく、そのような空港内検疫設備は十分に整備されていました(私自身が日本人帰国者として空港内でコロナ検査を今年4月に受けたので、すでに実体験として検証済みです)。

パスポートとPCR検査
空港内でもコロナ検査が受けられる体制があるのになぜ送還したのか (Shutterstock)

従って、すでに日本に到着した日本人に対して、同じ空港内に整備されている検疫検査を受けさせずに、書類の不備だけをもって国外に追放すること、送還することは妥当でも合理的でもなく、「恣意的」だったと言えます。日本が民主的手続に則って1979年に自発的に批准し、日本政府が遵守する義務がある自由権規約第12条4項に違反する行為だったと結論づけざるを得ません。
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「自国に帰れない」という深刻な不利益


なお日本政府は、国際条約は日本の憲法よりも下位でありかつ国内法よりも上位に位置すると述べていますので、自由権規約12条4項は検疫法に優越します。他方で、憲法22条に「日本人が日本に帰る権利」が明記されていないのは、現行憲法が抱える不備の一つと考えられ、憲法改正時に検討すべき事項の一つと言えるでしょう。

この憲法上の不備をふまえて仮にうんと行政府寄りに解釈すれば、先月の追放・送還措置は、日本の国内法に「日本人の帰国の権利」やその制限条件を明確に定めた条項がない中で、検疫職員が勝手に行ってしまった判断ミスなのかもしれません。

確かに全ての行政行為を法令で完全に細かく規定することは不可能で、特にコロナ禍のような緊急事態下では、公務員が法律を解釈して行わなければならない行為は多々あるでしょう。そのような解釈に基づく行為が妥当か合理的かを上記の「比例性の原則」に従って判断する際、その行為がどれだけ個人に深刻で具体的な不利益を与えうるかを注意深く検討する必要があります。

今回の日本人追放措置について言えば、その不利益とは、まずは「自分の国籍国に帰れない」というきわめて重大かつ深刻な不利益になります。加えて、特にコロナ禍では「どこの国にも入れない」、(状況は異なりますがいわば)映画『ターミナル』のような状況に陥る危険性まであります。なぜなら、日本だけでなく他国も「外国人については出国前72時間以内に得た陰性証明書を提示しないと入国できない」というルールを設けている国が増えてきているからです。
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文=橋本直子

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