「オーディオ事業部長になって、すぐ改革を始めました。工場を売却したりして、大胆に再生に挑んだ。これがうまくいきましてね」
すると、思わぬことが起きました。次から次へと、社内の事業再生の案件が、出井さんのもとに持ち込まれることになったのです。パソコン事業の再編、映像ディスク事業への参入、ベータマックス……。
「それこそ当時は僕が移ることが決まると、『出井が来る、この部門は大丈夫か』と思われたらしい(笑)」
出井さんは、会社のメインストリームを歩んできたわけではまったくありませんでした。むしろ逆でした。
「そういう社長も、経済界には少なくないんですよ。社長というのは、ある意味、天命のようなものでね。もちろんある程度は努力が問われる。あとはちょっと違うロジックで決まるんだと思う」
思うような配属にならなかった。出世街道に乗れなかった。厳しい部門に放り込まれてしまった……。一見、それはネガティブな状況のようにも思えます。しかし、長い目で見れば、まったくそんなことはない可能性も高いのです。
「若い人には、毎日、転職を意識しなさいと言いたいですね。会社との関係は日々『変わろう』と思っているくらいがいい。いま転職するならどの会社で、どんな仕事がいいか、常に意識しておく。すると自分の売りは何かを常にイメージするようになる。そうすることで企業の動向にも敏感になる。実際、僕もずっとそうしてきました」
しかし、結果的に出井さんはソニーを辞めませんでした。常に転職を意識していたからこそ、逆に辞めなかったのかもしれません。客観的に、自分の置かれた状況を判断することができたからです。
今日と同じことが、明日も起きるとは限りません。10年後も、いまと同じ世の中であるはずがない。ではいま、何をするべきなのか。必要なのは、変わり続けることを理解しながら、自ら行動をしていくことです。出井さんは、それを教えてくれています。
連載:上阪徹の名言百出
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