「CITY BY ALL」(博報堂/クリエイティブ・ビジネス・プロデューサー)

「豊岡演劇祭2020」で。『バッコスの信女—ホルスタインの雌』(撮影:igaki photo studio)

「芸術文化」と「観光」を架橋する学びを通して、地域経済を牽引する専門人材を育成する。兵庫県立芸術文化観光専門職大学(※1)は、兵庫県豊岡市に今年4月に誕生した新たな4年制大学だ。全国の国公立大学として初めて、演劇やダンスなど、パフォーミング・アーツの実技を本格的に学ぶことができることでも注目が集まっている。

豊岡市は「小さな世界都市」をビジョンに、前市長中貝宗治氏のもと、「文化・芸術によるまちづくり」を着実に進めてきた。

2014年に開館した舞台芸術のアーティスト・イン・レジデンス施設「城崎国際アートセンター」、市内の小中学校の「演劇的手法を活かしたコミュニケーション教育」授業の導入、昨年度から本格的に始まった「豊岡演劇祭」などが行われてきた。グローバル化が進む社会状況の中で、人口減少という課題に向き合い、「選ばれる強い価値を持った町」を育てていこうとする取り組みだ。

4月25日に投開票された市長選では、選挙期間中「演劇のまち」づくりが重要な争点のひとつとなり、結果的に新人の関貫久仁郎氏が当選し、全国的にも注目を集めることとなった。だが新しく誕生したこの専門職大学に、こうした「文化・芸術によるまちづくり」の実現を牽引していく中核的な役割が期待されることに変わりはないだろう。

新大学長は劇作家の平田オリザ氏。「城崎国際アートセンター」の芸術監督を務めてきたのちに初代学長に就任した。平田学長に、この新たな専門職大学の構想とそのビジョンを聞いた。 

(※1)専門職大学とは、専門性が求められる職業を担うために必要な実践的かつ応用的な能力を育成することを目的に、2017年5月学校教育法の改正によって設けられた新たな制度。


地方創生の切り札は2つ


鷲尾:大学構想の背景からお伺いできますか。

平田:いろんなポイントがあると思います。まず、豊岡市の人口は約8万人、但馬地域全体だと16万人。豊岡市の広さは、東京都23区とほぼ同じ広さなのですが、この地域にはずっと4年制大学がなかったんですね。

歴史的にみると、廃藩置県後に豊岡県が兵庫県に合併されていった経緯がありますが、現在、各都道府県に国立大学があることを考えると、もしも世が世なら、豊岡にも大学があってもおかしくなかったとも言える。

現在、少子化や人口減少はこの町でも進んでいます。地域の中に4年制大学がないということは、18歳になると多くの若者たちがこの地域から外へと出て行ってしまうことになるわけですね。専門学校を含めると高等教育機関への進学率は全国で7割以上ですが、豊岡市でも18歳人口の75%は一旦、外に出て行ってしまう状況にある。その意味でも、新しい大学の設置は、豊岡市、また但馬地域全体にとっても悲願だったわけです。


「豊岡演劇祭」での舞台、『ラブ・ダイアローグ・ナウ』(撮影協力:日高神鍋観光協会3)

おそらく日本の地方都市において、地方創生の切り札となるような即効性のある政策は大きく2つの方向性しかないのではないかと思うんですね。外国人を大量に入れるか、大学を誘致するか。

ジェンダーギャップの解消、雇用、住宅政策、子育て支援ももちろん大事ですし、他にも様々な政策があると思いますが、いずれも対処療法的な政策であり、ここまで地方が疲弊してしまうと、それだけでは抜本的な解決法にはならないかもしれない。

もちろん、本質的には、ただ大学を設置するだけではなく、「選ばれる町になる」ことが大切です。大学ができることで、確かに一時的には若者人口は増えます。しかしその後、彼らが町に残り続けてくれるかどうは別の話です。それはあくまでも町の魅力そのものにかかっている。私たちは大学内での学びについては全力で臨みますが、「卒業後もこの町に残り続けなさい」などとはもちろん言えませんから。

文=鷲尾和彦

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