トランプがもし再選されていれば、世界は気候変動の大危機に陥っていただろう。だがバイデンは就任後、直ちにパリ協定に復帰した。
米国の温室効果ガス排出量は、中国に次ぐ世界2位。10年前にバラク・オバマが掲げた目標は2025年までに排出量を26〜28%削減するというものだったが、バイデンの目標はより野心的で、2050年までに排出量実質ゼロを目指すパリ協定の方針に沿ったものだ。
トランプはパリ協定からの脱退だけでなく、環境や排ガスに関する規制の多くを撤回した。米国はトランプ退任を受け、国際社会における正当性と威信の回復を目指すと同時に、中国やインドをはじめとする主要排出国に対して行動を訴えている。
温室効果ガスの削減目標について開発途上国が問題視しているのは、現在の富裕国が半世紀前に拒否した化石燃料からの脱却を求められていることだ。新興諸国が、自分たちには先進国に追いつくために石炭、石油、ガスを使用する権利があり、富裕国から削減目標を強制されていると主張して抵抗するのも、自然なことだ。
しかし、現在のレベルで温室効果ガスの排出を続けると人類が存続の危機に陥ることはすでに分かっている。さらに、それよりも重要だとも言える事実として、技術の進歩により、環境への影響を抑えつつも私たちのニーズを持続的に十分満たすのに必要なリソースが得られるようになっていることがある。その代表例がソーラーエネルギーだ。ソーラーパネルとバッテリーのコストが大幅に下がったことにより、もはや最も安上がりの発電方法となっている。
経済の脱炭素化は必須であり、もはや、一部の国には汚染する権利があるなどという観点で議論できる問題ではない。地球全体の大惨事につながる恐れがあるのだ。
インフラ整備には気候変動対策が必須
米国がこれまで気候危機を助長してきたことを考えた時、米国が掲げた目標は果たして十分と言えるのだろうか? 答えはノーだが、良いスタートではあるし、米国が打ち出した大胆なインフラ整備計画の実現を保証するものともなる。インフラ目標を達成するためには、気候変動対策が必要不可欠だからだ。
これはまた、まさに誇張なしで人類の存続がかかっていると言える問題について、米国が国際的なリーダーシップを取り戻すチャンスでもある。今のところ、英国は温室効果ガス削減目標を、2035年までに1990年比で78%減と設定している。日本は2030年までに2013年比で46%減、欧州連合(EU)は2030年までに現在比で55%減を目標に掲げている。今後、他の国も同調して、これと同等またはそれ以上の目標を設定できれば、私たちは少なくとも正しい方向へと向かうことになる。