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2021.04.09

NEXTBLUE、新ファンドはなぜヨーロッパに特化するのか

左から、郡裕一氏、井上加奈子氏、タン・ヴィンセント氏

「日本が抱える少子高齢化、人口減少、サスティナビリティ、先進国の責務などの社会課題領域において、欧州のスタートアップは先進的なサービスを展開し始めています。それら欧州スタートアップへの投資や日本進出支援を行いリープフロッグ的な成長を後押しすること、また日本社会自体の変革に刺激を与えていくことが我々の狙いです」

NEXTBLUE有限責任事業組合(以下、NEXTBLUE)のゼネラルパートナーのひとり・井上加奈子はファンド設立の背景についてそう説明を切り出す。

NEXTBLUEは欧州と日本のスタートアップへの投資、欧州スタートアップの日本進出支援に始まり、欧州・日本のスタートアップエコシステム拡充を目指す、日本のファンドとしては稀有かつユニークな存在だ。ボストン・コンサルティング・グループ(以下、BCG)で新規事業や海外展開戦略、またベンチャーキャピタル・D4Vでポートフォリオマネジャーを務めてきた経歴を持つ井上、米国ゲーム会社大手の日本進出コンサルティングや朝日新聞のメディアアクセラレータ支援を担ってきた郡裕一、BCGで製薬業界を中心に新規事業開発や製品展開、海外展開戦略、海外M&A戦略などの業務に従事してきたタン・ヴィンセントの三人がゼネラルパートナーを務める。

今なぜ欧州のスタートアップなのか。実際に現地の起業家たちと親交を重ね、ともに事業を展開してきた経験を持つ郡は説明を続ける。

「英国・ドイツ・フランス・スペインのスタートアップの合計数はおよそ1万社。これは、日本の20倍の数にあたります。ただ、国内である程度の市場規模が担保されている日本のケースとは異なり、欧州各国市場だけでは成長展望は限定的。そのため各スタートアップはほとんどの場合、確固としたグローバル戦略を構築しています。また、欧州内では国境をまたいだ積極的な資金調達が行われており競争が熾烈です。勝ち抜くためにシード段階から戦略的勝ち筋を研ぎ澄まし、クオリティー的にも優秀なスタートアップが多いというのが私の印象です」

NEXTBLUEはすでに、デジタルトランスフォーメション(DX)領域において可能性を秘めた欧州のスタートアップへの投資を展開してきた。AIによるプロセスマイニングツールの開発および提供を行うLana Labs、データ統合やAI活用に適したデータの整理を自動で行うプラットフォームを提供するXapixなど、ドイツスタートアップへの投資がその一例だ。

またヘルスケア&ウェルビーイングも、NEXTBLUEが注力する領域のひとつだ。

もともと、欧州は政府が業界を主導する側面が強く、過去2012年にはドイツがインダストリー4.0というコンセプトをしかけ世界的なトレンドが生まれたことがある。その後、投資が活発になり、現時点においてもインダストリー4.0関連の有望なスタートアップはドイツに最も多いという実情がある。

そんなドイツでは、2020年にデジタルヘルスアクトという新たな法律も施行された。ここには、生命に危険をおよぼさないデジタルヘルスケアの領域のスタートアップが、医療器認定をより簡単に取得できるようになる内容が含まれている。「デジタルヘルスケアをリードするというドイツ政府の強い意思」(井上)が示された形だ。政策や法律というマクロ的な視点も考慮した際、ヘルスケア&ウェルビーイング領域の有望なスタートアップが、今後も欧州から数多く登場するだろうというのがNEXTBLUEの見立てである。
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取材/文=河鐘基

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