谷本:社会や企業に与えるダイバーシティの利点やインパクトについては、どのようにお考えですか?
オードリー:大切なことは、人々を幸福に導く民主的な意思決定をするということだと思います。たとえば、公共政策とか集団で民主的な意思決定をするときに、いろいろな人たちの声に耳を傾け、政策に反映させていく必要があるわけですが、意思決定をする人がどんなに頭が良い人でも、その人に多様性の経験や理解がなければ、一部の人たちやマイノリティーの人たちの声に気付くことができず、その人たちを犠牲にしてしまう結果になる訳で、それは社会全体の損失でもあると思います。
ダイバーシティとインクルージョンは表裏一体共存していて、人々の健やかさを願い、大切にして行くという共通の価値観です。全ての人たちの声に耳を傾け、可能性を広げ、人々の健やかさを大切にしていくことが重要なのだと思います。
たとえば、子供を育てた経験のない人が職場の建築設計をしたりすると、授乳室がなかったり、あったとしても使い勝手が悪い授乳室ができてきたりします。でも、それは決して意地悪な気持ちからそうしているわけではなくて、経験からくる知識がないからそうした不都合が起きてくるんですね。ダイバーシティという基本理念がないとどういう社会が生れるか、この例からも良く分かると思います。
谷本:企業として、ダイバーシティはイノベーションの文脈で語られることが多いですが、大臣のお考えは?
オードリー:まずは、ダイバーシティが全ての始まりで、いろいろな人たちがさまざまな経験をしたり、異なった視野を持つことが大切です。重要なことはいろいろな人たちが互いにそれぞれの意見に耳を傾けるインクルージョンですが、ダイバーシティがないとインクルージョンは生れてこないので、まずはダイバーシティが最初の一歩だと思っています。
谷本:大臣は、デジタル担当大臣というポジションの他に、ご自身の役割をどのように考えていますか?
オードリー:自分はポリティシャンではなく、ポエティシャン、つまり「詩を奏でる人」だと思っているんです。ポリティシャン=政治家という一義的な役割だけではなく、強いて言えば「ロール・オブ・コミュニケーター」としての役目を果たそうとしています。
楽しいことは噂より早く広がるし、平等でもあるんですね。その証拠にテキストや歌やメッセージは瞬く間に拡散される。小学生作家、秋元ういちゃんの本に関しても同じように感じました。
オードリー・タン(唐鳳)◎現在中華民国のデジタル担当大臣を務める政治家及び、プログラマー。2005年、Perl6のHaskellによる実装のPlugを開発し、「台湾のコンピューター界における偉大な10人の一人」とも言われている。