キャリア・教育

2021.03.11 08:30

突然のパートナーの転勤。キャリアか家族か?ではない令和の働き方


時間軸を区切る


竹崎:人生の転機を迎えたとき、大きく分けると「パートナーとの調整」と「職場との調整」があると思います。まずパートナーとの調整について伺いたいのですが、自分やパートナーに転居が伴う転機が訪れたとき、転居のタイミングや転居先となる場所をどのようにすり合わせましたか? 

瀬尾:私たちのケースを紹介すると、私は海外で働いてみたいという一心で日本での安定した仕事を辞めて留学したので、卒業後は絶対にアメリカに残って働きたいと考えていました。一方、夫は既に5年くらいアメリカに滞在していたので、一旦日本に帰国したいと考えていたんです。

そこで、ひとまず私はアメリカに残って東海岸のニュージャージー州で働き、夫は日本に戻ることにしました。どちらかの希望に合わせたところで優先した方のキャリアが成功する確証はないですし、どちらか片方のキャリアを犠牲にしても長期的にはお互いハッピーにはならないと思ったんです。

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瀬尾亜由氏

竹崎:それぞれのキャリアを追い求めると、そのままずっと別々に暮らすことになってしまいませんか?

瀬尾:そうならないように、時間を区切りました。まずは「3年」を目処にお互い好きなことをやってみようと。3年が経った時点で、どちらかが成功してどちらかが失敗していたら、成功している方に合わせる。もしどちらもうまくいっていたら、ボストンかサンフランシスコを合流地点として互いに転職し、そこで一緒に暮らそうという話になりました。

竹崎:お互い譲歩や妥協をせずにチャレンジし、3年経った時点でもう1回レビューしようという話を事前にできていたということですね。なぜ期間を「3年」に設定されたんですか。

瀬尾:どんな仕事でもある程度キャリアを積むと、2~3年くらい経験したところで、自分にフィットしているか、やっていけるかが見えてくると思うんです。3年経てば一通り結果も見えてくるかなと。個人的なところでいうと、子供を持つこと考えたときにも、30代後半に差しかかるところで区切りをつけられるように設定しました。

辻:私たちも、留学を終えてから「3年」を区切りに動いていたので共通しています。

竹崎:辻さんたちが「3年」をキーワードにした背景も気になります。

辻:アメリカ留学を終えてから、私は日本で、妻はインドネシアでの勤務に戻ることになりました。お互い遠距離での生活に耐えられるのは3年くらいだろうと考えて、どこに住むかはわからないけど、3年以内に一緒に住もう、とだけ2人で約束したんです。今振り返ると、ある程度長い期間で時間を区切るのは良かったなと思います。3年あれば、半年や1年では難しい選択肢の実現可能性も高まるので。

3年はあくまで目安ですが、期限を設けるのは重要だと思います。期限がないと、いつ決断したら良いかわからなくなりますし、終わりが見えない遠距離生活は辛いものがありますからね。一緒に次のステージを想像できる状態にする配慮ができれば良いと思います。

場所を絞り込む


竹崎:瀬尾さんのケースでは、3年後にどちらのキャリアも順調であれば、互いに合流地点としてボストンかサンフランシスコを目指すとのことでしたが、どういうプロセスでその2つの場所に絞り込んでいったのでしょうか?

瀬尾:これは業界や職種によって事情が異なるのと思いますが、私は製薬・バイオテック業界にいるので、アメリカでその分野が盛んなのは、東海岸のニューヨーク・ニュージャージー、ボストン・ケンブリッジ、もしくは西海岸のサンフランシスコ、サンディエゴの辺りなんです。

一方、夫は大学の研究者なので、研究環境が整っている大学があるところが良い。ただ、大学の仕事は先が見えないという面もあるので、将来的な産業界へのキャリアチェンジのオプションも考慮しました。そうなると、バイオ系のベンチャーが多いボストンとサンフランシスコが良いかなと。

つまり、アカデミア、バイオテック、製薬会社が集積していてお互いのキャリアの成長を継続して見込める場所という条件で絞っていきました。第一希望はサンフランシスコでしたが、それは住むなら暖かい地域の方が良いという単純な理由です(笑)。

竹崎:瀬尾さんは現在サンフランシスコにお住まいなので、本当にふたりともサンフランシスコで仕事を見つけたというのがすごいですね。

瀬尾:私としてはカマをかけていたところもあったんですが、夫が本当にサンフランシスコでポジションを見つけてきたときにはびっくりしました(笑)。ちょうどそのとき、私は周りとの信頼関係を構築できてきたという手ごたえや、大きな仕事を任されるチャンスが巡ってきそうなところで、正直もう少しニュージャージーで働きたい気持ちもあったのですが、パートナーとの約束を守りました。
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文=伊藤みさき 構成=竹崎孝二

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