NYNJ 田中:確かに、女性が活躍する場所を作ることは大事ですが、本当のジェンダー平等を目指すならば女性であることだけを理由にオファーするのはちょっと危ないなと思います。日本がこれからジェンダー平等の社会をつくっていく上で、このような誤った方向にいかないか心配です。「女性だから」ではなく個人のパフォーマンスを評価して機会を提供するような社会になってほしいです。
大井:日本にはすでに優秀な女性がたくさんいるので、声を上げにくい現実の中で、どれだけ活躍してもらえる環境をつくれるかということが重要だと思います。50:50にするために女性だから選ぶ、というわけではないですよね。
「だから女性は......」の風潮を変えていく
NYNJ 和倉:東京五輪パラリンピック大会組織委員会の森喜朗前会長の発言からも、日本に根付くジェンダー差別の風潮を感じます。大井さんはあの発言から何を考えましたか。
大井:個人的には、全く驚きのない発言です。97歳で亡くなった私の祖父も、家の外で言ったらジェンダー差別と捉えられるようなことを時々言っていました。その世代の人たちを変えていくのは難しいと思います。でも、オリンピックの関係者としてあの発言をしたことで、海外のメディアも反応した。管理職や政治家といったポジションに女性がつけないこと、その事実自体が流されてしまうことをなんとかしないといけません。
日本社会として父親が家事を手伝うのがえらい、という風潮も変わってほしいです。いま住んでいるシンガポールでも、子どもが幼稚園で熱を出した時に先に電話がかかってくるのは私、母親です。生放送があって絶対に出られない時間があると伝えているにも関わらず。こういう時は故ルースベイダーギンズバーグ判事がおっしゃっいていた言葉「この子にはもう1人親がいるので、そちらにお願いします」と伝えますが、共働き家庭が多いシンガポールでも、幼稚園側も父親にかけるのはハードルが高いのか、母親父親のステレオタイプが変わるには時間がかかると感じました。
妊娠35週目まで飛行機で飛び回り、各地からリポート。写真は2017年5月、東京から
NYNJ 田中:日本では「産休や育休を取りづらい」「職場に迷惑をかけるから肩身が狭い」という声があるのもすごく悲しいことだなと思います。このような声に対して、どう思いますか。
大井:そもそも日本は少子化なのに、子どもを産む人に対してそんな思いをさせていることがおかしいですよね。BBCだと現場でレポートをする特派員はみんなの憧れなのですが、私が長女を妊娠している時にちょうどその募集があったんです。
履歴書の1行目に「妊娠中だからそれが不利になるならば、私を選ばなくて大丈夫です」と書いて提出したところ、上司にすごく怒られました(笑)「こんなことを言う必要はない。良い候補者だと思ったらあなたを雇うし、他に優れた人がいたらその人を選ぶだけだ」と。要は、妊娠中であっても本人が行けると言えば行かせてくれます。全ては本人次第なんですね。