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2021.02.26 07:30

長野が生んだ非効率型「食のSPA」。久世福商店流、ヒット商品の開発法

自然豊かな地でコツコツとつくられたよい品を、全国へ届ける。創業40年を超えたサンクゼールは“食のSPA”とも呼べる垂直モデルを生産地とともに築き上げた。コロナ禍における守りと攻めの姿勢を聞く。


SPA(製造小売業)の代名詞といえば、ユニクロ。川下(販売)と川上(企画・生産)を一直線につなげて、人気商品を安価に安定供給することで大成功を収めた。流通を効率化させたこのSPAに対して、真逆の「非効率型」SPAを食の世界で完成させて成功したブランドがある。7年ほど前から、全国の商業施設や観光地で見かけるようになった「久世福商店」だ。食のセレクトショップだが、その手法は効率的とは言えない。全国の生産者を訪ね、その土地にしかない良品を発掘。統一ブランドで展開するという、食の源流から河口までをつなげたビジネスモデルだ。手がけるのは長野・飯綱町に本拠地を置くサンクゼール。本社と工場がある「サンクゼールの丘」を訪ねると、大雪のなか、2代目社長の久世良太が出迎えてくれた。

「昨年のいまごろは長崎の五島列島に行っていました。離島は過疎が進み、産業の柱がない。仕事がないから人がますます離れてしまう。何かバックアップできないかと訪ねたら、五島うどんもキビナゴも本当においしくて、発見が多かったですよ」

創業のルーツは、父が信州・斑尾高原に移住して開いたペンション。母が宿泊客に出す手づくりのジャムが評判となり、商品化して販売を開始。株式会社化後に本社を移転し、1988年に工場を新設した。

両親がこの丘に根を下ろそうと決めたのは、遅い新婚旅行でフランス・ノルマンディー地方を訪れた経験から。リンゴ畑の広がる農園。アップルブランデーの蒸溜所併設のレストランでは高齢の夫婦がゆったり食事を楽しむ。「自分たちの国でもこんな豊かな食文化が求められる時代が来るのでは」。その思いから構想したのが、生産と販売、消費の場が一体のこの丘だ。


雪が降りしきるなか、飯綱町の工場からは、ジャムを炊く湯気が立ち上っていた。


6次産業化で地方創生。自社工場では、良質な水や食材をもとに、ジャムやのりのつくだ煮などの製造を調理から瓶詰めまで一貫して行っている。

取材に訪れた日は、次第に雪が激しくなった。そんな情景も相まって、修道院のような趣がある。久世家はクリスチャンの家系。ブドウ畑の一画で聖書の一節を引いた小さな札を見かけた。食品の加工場とワイナリー棟から、芳しい香りが漂ってくる。

「自前の工場ができる前は、外部の工場にレシピを伝え、完成品を仕入れる企画・販売業。自分たちで商品をつくるようになってから観光地や百貨店にも卸しました」

しかし、売価の決定権はなく、主体的な商売はできなかった。転機は99年に軽井沢で開業した直営1号店。アウトレット内の35坪で、初年度に2億円弱を売り上げた。パスタソースやドレッシングなどを開発し、全国へ進出していく。年商7億円となった2005年、久世が入社。当初は家業を継ぐつもりがなく、精密機器メーカーで研究開発者の道を歩んでいた。

「アメリカでワインづくりを学んだ弟が会社を継げばいいと。僕はエンジニアになるか、学校の先生になりたかった。でも、この会社でものづくりができるし、人に教えることもできる。夢は両方かないました」

専務時代、経産省が日本発のブランドを積極的に後押しし始めた機運も手伝い、海外市場への展開を経験。シンガポールの展示会出展や中国法人の設立(現在は撤退)を経て、自分たちの立ち位置を見直した。海外へ行くと『ワインやジャムではなくて、味噌や醤油はないの?』とよく言われた。日本企業に求められているものは何なのか、学ぶ機会を得たという。
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文=神吉弘邦 写真=吉澤健太

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