経済・社会

2021.01.30 17:00

「脱成長コミュニズム」社会へ、危機の瞬間のチャンス到来

斎藤幸平


──脱成長やコミュニズムに抵抗感がある人も多い。生産力や生活レベルの低下を受け入れられるのでしょうか。
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重要なのは、資本主義がどれだけ持続可能なものに近づいていったとしても、結局我々は潤沢な生活を享受できないということです。資本主義が絶えずいろいろなかたちで欠乏感をつくり出すからです。その欠乏というのは、例えば、絶えず新しいスマホを持ちたいというような気持ちです。希少性というのが絶えず組み込まれているのが資本主義です。そういう商品が次々と出てくるので、お金が必要になって、人々の労働時間も増えていく。

これだけ生産力が上がっていても、我々は40時間以上働かなくてはならない。逆に、余暇や家族との時間や自分に使う時間は減っていて、希少なものになっています。働くこと以外に人生の意味はいっぱいあるはずですが、それ以外の豊かさや、幸せのためのトレーニングや教養、趣味の時間もすべて、希少なものになっています。

結局、全員が長時間働くことになり、大量の商品が生産される。それを売るために広告やマーケティングが必要になる。全部、本来不要なのです。消費、労働、消費、労働というサイクルのなかで、時間が足りないストレスを常に感じ、健康も犠牲になって、お金も足りない状態になる。
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だから、資本主義は経済成長を続ける限り、社会を幸福にしません。そうではない社会であれば、もっと追求できた可能性や時間的な余裕が犠牲にされてしまう。資本主義がもたらしてくれる物質的な豊かさの犠牲として手放してしまうには、あまりにも大きなものではないでしょうか。

私たちは今の資本主義のもとで、非常に競争的で、非常に消費主義的で、絶えず何かに駆り立てられていますが、むしろ、スローダウンしていくことで見えてくるような時間の使い方とか、生活のし方とか、そういうものに潤沢さがあるはずです。

ただ、脱成長だけでは駄目です。富豪が変わらずに脱成長しても、庶民は非常に苦しいまま。やはり格差を抜本的に是正する必要があるので、「コミュニズム」が必要になるのです。もちろん、ソ連や中国ではありません。資本主義のもとで独占され、希少化された富を、もう一度共有財産=コモンにしていくのです。

生活に必要な基本的なサービスであるとか、最低限必要な、電気、水、食べ物も究極的に何らかのかたちでコモンにする。教育や医療、住居なども。そうやってコモンが増えていくと、商品経済が生み出す希少性が緩和されて、人々が代わりにコモンの潤沢さを得られる。

すると、絶えざる労働のプレッシャーから解放される。社会全体としても働く時間が減っていくので、消費しないといけないもの自体も減っていく。ポジティブな循環が生まれて、代わりに人間それぞれもっと別の豊かさ、自分が思い描くより意味のある行動に活動の時間を振り分けられるようになる。
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インタビュー=フォーブス ジャパン編集部 ポートレートイラスト=ポール・ライディン

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