新型コロナの専門病棟に応札した理由
──遠隔治療のシステムが新型コロナの専門病棟でも使えると考えたのはどんな理由からでしょう?
昨年、神戸の中央市民病院で、新型コロナの臨時病棟に、患者を見守るカメラを設置する工事の入札が行われることを知りました。重症者向け病棟は、ある意味でICUの一種です。遠隔で患者の情報を医師らに伝えるのは同じです。そこで、これまで開発してきた技術とノウハウが、新型コロナへの対応でも役立てられると考えました。
──詳しくそのシステムを教えてください。
まず、スタッフステーションのディスプレイからカメラが見守る患者を選ぶと、その映像が拡大され、表情まで読み取れる。さらに、マイクで話しかけ、声を聴くこともできる。そして、医師が見たい、人工呼吸器の稼働状況を示すグラフィック画面が、同じディスプレイに表示されます。これらの独立した医療機器は、通常は遠隔では見ることができないのですが、それを可能にしています。
天井の高性能カメラと壁にはスピーカー&マイク
遠隔でも、ベッドのそばにいるのと同じぐらいの情報が得られるシステムなのです。これまでも新型コロナ病棟で監視カメラを付ける事例はありましたが、重症者だとカメラだけでは十分でない。実際に、見た目では問題ない患者でしたが、医療機器からのデータを表示するディスプレイから呼吸困難になっていることが判ったりしました。とにかくお役に立てているようで、自分としてもたいへん嬉しいです。
実は、神戸市の中央市民病院では、昨年4月に新型コロナウイルスの院内感染が発生。同病院は、厚生労働省の救急救命センターとしての評価が6年連続で1位と「日本一断らない救急」で知られており、新型コロナ患者にとっても最後の砦だったのだが、救急と新型コロナの患者を、一時的に受け入れられなくなる苦い経験を味わった。
防護服を着用したコロナ患者対応 写真提供:神戸市立医療センター中央市民病院
これを踏まえ、昨年5月に、一般病棟とは隔離した新型コロナ重症者用の臨時病棟を建設することを決断。さらに、医療従事者の感染防止と負担削減を図るカメラ整備の際に、T-ICUが入札に参加し、彼らの遠隔システムの導入が決まった。そのT-ICUという会社が、現役の専門医が率いるスタートアップ企業というのが、いかにもいまの時代をあらわしているかもしれない。
連載:地方発イノベーションの秘訣
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