森を日常にする。コロナ後の世界に求められる「癒し」のローカルツーリズム

世界的に森林浴の効果が認められ、森で過ごす人が増えている。写真はグローバルな山伏の姿 =Yamabushido提供


しかし、忘れてはならないのはあくまで自然環境、森や海の劇的な回復を人類が助けていくような形でツーリズムの未来を描かなければ実現しないこと。だからこそツーリズムと環境再生の両立は世界的に必須なのだ。

「日本文化 x エコセラピー」インバウンドツーリズムの可能性


エコセラピーへの注目は筆者が住むイタリアでも高い。本屋にはずらりと世界中のセラピーを紹介する健康本が並んでいる。すっかり世界共通語になった「森林浴」をはじめ、座禅や指圧、茶道に盆栽、習字や金継ぎまで、心を落ち着ける精神的な効能があるセラピー的な価値が注目されているように感じる。イタリアの民間団体による森林浴プログラムは北からシチリアまで、ラグジュアリー系からワイルドなアクティブ系、ファミリーターゲットのゆるやかなものまで多種多様に存在している。

英国でもケンブリッジ公爵夫人キャサリン妃が一昨年に共同設計したチェルシーフラワーショーの庭園は日本の「森林浴」をテーマにしており、その後英国王立鳥類保護協会は、イギリス全土で一連の森林浴イベントを展開したのは記憶に新しい。森林浴は日本国内ではそう新しさは感じないかもしれないが、科学的な根拠も含め世界から信頼されており、日本ならではの文化的・地理的特徴を活かしたウェルネスインバウンドトラベルコンテンツとして本格的に設計されれば日本発エコセラピーとしてさらに世界の関心を集めることもできそうだ。

ところで、先述の山田氏にはもうひとつ、「修験道の山伏」という顔がある。修験道は森のみならず日本の聖山に深く分け入り、自然に対峙し己の感じる力を養う日本の伝統的な修行のひとつだ。

山形県鶴岡市には古代から続く出羽三山という修行の地が広がり、山田氏もこの出羽三山の中心となる羽黒山で修験を行った経験が森のプログラムにも活かされているという。ツーリズムの領域では、修験道は無宗教だが精神性は重んじる世界の「Spiritual But Not Religious層:に静かに広がっており、宗教性よりも自然と対峙する感じる力を養うエコセラピックなプログラムと言える。

グローバル山伏
インバウンド向けに、修験道の修行体験を提供している(写真提供:Yamabushido)

インバウンドに特化してこの修験道の修行体験を提供する旅行社Yamabushidoを設立した加藤丈晴氏は鶴岡のみならず、自身も南米やイタリアへも山伏独特の装束で渡り歩くグローバルな山伏だ。加藤氏のほかチームにはニュージーランド出身のメンバーもおり、英語で本物の修行体験が出来ることで世界中から体験希望者が後を絶たない。

ほかにも日系アメリカ人が共同設立者として活躍しているHidden Japan社をはじめ、個性的なローカルなスモールツーリズムオフィスが誕生しており、コロナが落ち着けば、再び国際色豊かな山伏の姿が見られるだろう。鶴岡市ではこの出羽三山の独特の文化を食や農などあらゆる地域の価値につなげて広げるべくDEGAM という地域DMOも設立した。

今後は修験道以外にも江戸時代の庄内藩のマインドフルな釣り文化「釣道」など日本独自の五感を磨く自然プログラムのポテンシャルを掘り起こして、国際的に参加者同士のつながりを作り、地域住民との関わりを生み出すエコセラピー的なプログラムや展開にも、もちろん期待したい。

ウェルネストラベルが広がっても、どの国でもできる森林浴やヨガや瞑想ではもったいない。その土地にしかない文化 x エコセラピーについて意欲的に創造力を働かせて、オリジナルな価値を打ち出せれば、世界中の人が癒されに来る日本のツーリズムの未来の可能性はもっと広がっていくだろう。


連載:イタリア発「サステナブルな衣食住遊イノベーション」
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文=齋藤由佳子

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