GoToは、感染拡大による経済停滞が直撃した飲食業や観光業、地域経済を助けようと、20年7月22日から国内旅行に対する政府からの補助金(Go Toトラベル)が出されたのを皮切りに、10月1日からは飲食店利用に対する補助金(GoToイート)も開始。観光庁の発表によれば、11月末時点で4000億円以上の政府支援が投入され、延べ6800万人以上が利用しており、「世界的にも大規模な政策」だ。
しかし、11月からの検査陽性者数の増加を受けて、感染拡大を助長しているとの批判が高まった。
では、過去数カ月のGoToは本当に感染拡大させたのか? 年末年始の一時停止で感染に歯止めをかけられるのか?という疑問が生まれてしかるべきだが、現段階で、GoToと感染の関係性、特にGoToが感染を広げるのかどうか、という因果関係はまだよく分かっていない。
そこでGoTo政策の影響を予測しようと、私(イェール大学助教授、半熟仮想株式会社代表)と粟飯原俊介(半熟仮想株式会社技術統括)、西村祐樹(コロンビア大学修士課程、半熟仮想株式会社)、匿名分析者(大手民間企業データサイエンティスト)の4人で研究チームをつくり、検証した。その結果を簡単に紹介したい。
GoToの新型コロナ感染への影響を明らかにするため、具体的には1.過去のGoToトラベル・イートの導入が陽性者数に与えた影響の検証、2.年末年始に予定されているGoTo停止が陽性者数に与える影響の予測、を行った。
データを用いた予測を得意とする「機械学習(人工知能)」と、データから因果関係を発見することが得意な「因果推論(統計学や経済学の一分野)」の技術を組み合わせたデータ解析の結果、分かったのは、下記の通りだ。
1. 7月のGoToトラベル開始とともに全国の検査陽性者数が累計で最大5300人増えた。
2. 年末年始のGoTo停止中も陽性者数は増える。だが、仮にGoToを継続した場合と比べればGoTo停止中の陽性者数増加は累計約3700人減ると予測される。
厚生労働省によると、12月28日現在の国内での新型コロナウイルス感染症の感染者は、全国で22万236例、死亡者は3252人だ。GoToの経済効果に対し、5300人という陽性者の増加数について、多いとみるか、少ないとみるかは、議論が必要だろう。
ただし、どなたでもわかるように、GoToの影響の検証や予測は控えめに言ってもとても難しい問題だ。私たちの分析にもさまざまな限界があり、予測も間違っている可能性があることを強調しておきたい。
最終結果と大きな限界
今回の分析や予測には、GoogleCloudPlatform提供のcovid-19-open-dataの検査陽性者数データから、20年1月2日から20年12月25日にかけての全国の検査陽性者数データのみを使用している(詳細はこちらに公開している)。
(図4 GoToトラベルを停止した場合と継続した場合の全国検査陽性者数への影響)最終目的に関する結果をまとめた図。一番上の図では、黒線が全国検査陽性者数の実測値、青点線がGoToトラベルを継続した場合の予測値(継続予測値)、赤点線がGoToトラベルを停止した場合の予測値(停止予測値)を示している。赤点線が青点線を下回ることから、GoToトラベルを継続した場合と比べ、GoToトラベルを停止することで陽性者数を減らせることが示唆された。ただし、GoToトラベルを停止したとしても陽性者数は増加が見込まれることに注意が必要だ。一番下の図はGoToトラベル停止後14日間における累積効果を示しており、GoToトラベル停止によって14日間で全国検査陽性者数を3700人ほど減らせるという予測結果が得られた。