オープンワールドゲームは、コンソールやPCゲームでは人気を博していたが、スマホゲーム向けに開発された例はなかった。「当初は、不可能な挑戦だと思えた」とLiuは話す。しかし、MiHoYo は3年間の月日と1億元(約16億円)の開発費を投じた結果、2020年9月に「原神(Genshin Impact)」をリリースした。
Liuは、大学の同級生2人と2011年にMiHoYoを設立した。同社が開発した「崩壊」シリーズは大ヒットし、新ゲームの開発に必要な資金には困らなかったという。
長年の努力は実り、原神はリリース初日にiOSとAndroidを合わせて1000万ダウンロードを達成し、現在ではプレイステーション4やニンテンドースイッチなどのゲーム機向けにもリリースされている。また、12月2日にはアップルが2020年のベストアプリを選出する「App Store Best of 2020」が発表され、原神はベストゲームに選ばれた。
筆者は、LiuとMiHoYoの海外事業担当バイスプレジデントであるWenyi Jinにインタビューを行った。彼らは、MiHoYo の社名とApp Storeのロゴが刻印された青いブロック状のトロフィーをZoomの画面越しに見せながら、受賞の興奮を語ってくれた。
「多くの人から、スマホ向けにオープンワールドゲームを開発することは常軌を逸していると思われたが、我々はアップルのスマホ向けチップであれば十分対応できると考えた」とLiuは述べた。
MiHoYoは2015年には東京の秋葉原にも事務所を開設した。原神のグラフィックは、日本アニメの影響を色濃く受けている。
原神は無料でプレイ可能だが、レベルアップするためには課金が必要だ。スマホゲーム業界では、このようなF2P(フリー・トゥ・プレイ)モデルが大成功をおさめ、市場規模は500億ドル規模にまで成長した。
ゲーム会社からIPホルダーへ
LiuとJinは、原神の売上高を明らかにしなかったが、リサーチ会社Niko Partnersは、iOS版とAndroid版だけで既に10億元(約160億円)を売り上げたと推測している。
MiHoYoは、アップルから表彰を受ける前日に、グーグルの「Google Playベストゲーム2020」を受賞した。しかし、アプリ内課金で使う金額は、iOSユーザーがアンドロイドユーザーの2.5倍であることを考えると、iOSでの成功の方が収益に貢献していると思われる。
Liuによると、自身を含むMiHoYoの創業メンバー3人は、アニメとアメコミの大ファンだという。彼は、MiHoYoは単なるゲーム開発会社ではなく、IP(アニメーションや漫画の版権)ホルダーだと考えている。
同社は、アニメーションや漫画のプロダクションや、自社IPを使ったグッズ製作を手掛ける会社を傘下に保有している。
「漫画や玩具、映画などの製作を通して、原神の世界を拡大していきたい」とJinは話す。一方でLiuは、「我々は、マーベルのような世界観を作り上げていきたい」と語った。