そもそも彼らを鬼退治へと駆り立てたのは「きび団子のおいしさ」である。だったら、鬼退治よりもその「感動の共有」をプロジェクトの目標にしたら、彼らはもっとハッピーなのではないか。
おばあちゃんのレシピを特許出願し、きび団子屋チェーンを展開。「和菓子の美味しさで世界平和を実現する」を目標に、鬼に虐げられた民を勇気づけたらどうだろう? きっとその起業ストーリーは極上のPRになるはずだし、自分たちが命をかけるほどおいしいと感じたものを世に広める仕事はイヌ、サル、キジの3匹にとって、鬼を殺すことより幸せに違いない。
このように、基本的な戦略やゴールを、スタッフのハッピーを起点にグリグリ変えて、前向きな落としどころにポトンと落とすのがスタッフ主導型ハッピーエンド生成法なのだ。
私がこの方法をメソッドとして確立させたのは、2013年に創刊した「東北食べる通信」のコンセプト開発時である。現ポケットマルシェCEOの高橋博之とその仲間たちは、震災後、熱い思いと東北の限られた生産者たちとの人脈だけで「東北の生産地と消費者をつなぐ食品宅配サービスを始めたい!」と相談をしてきた。
勝算が立たず頭を抱えたのだが、「文章力」「撮影やデザインセンス」「クッキング」など、彼ら一人ひとりの得意技を組み合わせることで、「史上初の食べ物付き月刊誌」というコンセプトをひねり出すことができた。
「食品配達サービス」から「食べ物付き月刊誌」へと方向転換した結果、この雑誌はグッドデザイン賞で金賞を受賞するなど、震災復興の代表的事例のひとつとして評価され、彼らは今日も社会課題克服のために、それぞれの舞台でのびのびと活躍している。一見行き当りばったりの安易な方法に見えるが、これは他者への全面的な信頼がないとできない、組織の胆力が試される方法なのである。
起案時のトレンドに基づいて立案され、何年も練り直されて決裁されたプロジェクトの、融通の利かない数年後の目標達成のためにチームスタッフの大事な人生をすり減らすような、従来のやり方が最善だとは言い切れない。例えば5つのプロジェクトがあるとしたら、お試しとしてその1つか2つはこのメソッドを取り入れてみるのはいかがだろうか。
本連載で発表しているすべてのコンセプトは、実際にビジネスに取り入れられるよう、講演や研修、ワークショップとしても提供しています。ご興味ある企業の方は、Forbes JAPAN編集部までお問い合わせください。
坂本陽児◎「ソーシャルアイデア」担当。広告賞の審査や海外勤務を経て、社会課題に対するアイデアの大切さに気づき、世界のアイデアを発信するブログも更新中。
電通Bチーム◎2014年に秘密裏に始まった知る人ぞ知るクリエーティブチーム。社内外の特任リサーチャー50人が自分のB面を活用し、1人1ジャンルを常にリサーチ。社会を変える各種プロジェクトのみを支援している。平均年齢36歳。合言葉は「好奇心ファースト」。