(前回の記事:豊田章男とイチローの秘密 なぜ2人は「似た者同士」なのか)
2021年1月から、章男体制を支えてきた役員人事が刷新される。コロナ禍になぜ章男は副社長の廃止や役員の入れ替えを決断したのだろうか。4回目の連載は、アフターコロナに向けたトヨタの経営改革を追った。
コロナ危機に決断「バトンタッチに向けた準備」
「コロナ危機という、〝有事〟であることで出席しています」
豊田章男は11月6日にオンラインで行われた第2四半期決算説明会に、異例の出席をした理由をそう説明した。アフターコロナを前にして、経営のギアを一段上げる覚悟を示したといえる。
実際、トヨタはコロナ禍にもかかわらず、2021年3月期通期の連結業績見通しを大幅に上方修正した。営業利益は従来予想の5000億円から1兆3000億円となる見通しで、グループの世界販売台数も910万台から942万台に引き上げた。
そして、ほぼ1カ月後の12月3日には、21年1月1日付の役員人事を発表した。
その最大の狙いは、次世代へのバトンタッチに向けた準備である。目を引いたのは、これまで長年にわたって章男体制を支えてきた元副社長の河合満(72)、寺師茂樹(65)、友山茂樹(62)の3人が執行役員を退任したことだ。
思い起こせば2018年2月、静岡県湖西市の豊田佐吉記念館での出来事である。章男のほか、6人の副社長が集合し、経営チームの団結を図るため、血判状を作成した。誓詞には、「我々は、日本、延いては世界経済・社会の発展のためトヨタグループを新たに創造すべく、豊田章男とともに、身命を呈してあらゆる努力を尽くすことを誓う」としたためられていた。
この血判状に拇印を押した7人を、章男は「7人の侍」と称した。
あれから3年弱の歳月が流れた。ディディエ・ルロワと吉田守孝に加えて、今回の3人の執行役員の退任を含めると、「7人の侍」のうち、いまや残っているのは社長の章男と「番頭」の小林耕士の2人だけである。確か、映画「七人の侍」では、野武士集団と闘って最後まで生き延びたのは3人だったはずだ。
かくして、トヨタの「7人の侍物語」は幕を閉じた。第1ステージは終演したのである。第2ステージの開幕にあたり、章男が率いる経営チームの平均年齢はこれまでの59.3歳から56.1歳に下がった。
トヨタはこれまでも、次々と経営改革を行ってきた。組織の改正や役員体制の変更を行うたびに「そこまでしなくても」という声が章男の耳に届く。「危機感をあおりすぎ」ともいわれた。「それでもやり続けるのは、自分が思い描く理想の形で未来にタスキを渡したいと考えるから」と、章男は決意のほどを語ってきた。