──世界190カ国に配信されることには、作り手としてどんなメリットがあると感じますか?
1つは、世界の広いマーケットを意識したものづくりができること。僕は以前から、日本発の作品でも、日本じゃないどこかの国の人のためにつくる映画があってもいいと思っていました。例えばイタリアでつくられた西部劇「マカロニ・ウェスタン」のように。
「マカロニ・ウェスタン」はアメリカの西部開拓時代を題材にしていながら、アメリカでつくられた西部劇とはタッチが違うことが、新しくて魅力的だったわけです。その面白さによって人気が爆発して、クリント・イーストウッドは一気にスターダムに駆け上がりました。
それこそ、企画の段階から「これはアジアの人たちに向けてつくろうよ」とか、「中国の人が観たらどう思うんだろうね」なんて、脚本をつくる段階から話せたら楽しい。さまざまな好みを持った視聴者という受け手がいるからこそ、企画の自由度も上がる。そんな、ずっと考えてきたことがいよいよ実現できる状況になってきたと実感しています。
また、作品の長さや形態に縛られないのもいい。映画の長さ(上映時間)って、2時間にするか2時間30分にするかで、1日に劇場でかけられる回数が変わってくる。つまりそれによって、興行成績にも影響が出てくるんです。だからどうしても目標の時間にあわせるために削る作業が発生する。どこをどう削ると、逆に内容的にもさらに良くなるか、この戦いを映画監督はずっとやっていて、それもつくるおもしろさだったりするわけですが(笑)。
テレビドラマでも、放送時間によって表現の傾向やジャンルを調整する必要があるけれど、ネットフリックスはとにかく縛りがない。いろいろな描き方ができる。だから、これはどこにもはまらない企画だなというときに、ネットフリックスだったら「アリ」なんじゃないかと、クリエイターとしてそう思ってしまう自分がいるわけですよ。
それから、世界中に一斉配信されて多くの人の目に触れるということは、それだけ多くの人に僕を知ってもらう機会ができるということ。作り手からすれば、「一緒にやろう」と声をかけてくれる人が増えるのは嬉しいし、やるやらないは別にして、企画の自由度が広がっていることを実感しています。
日本の映画づくりにおいても、「配信」というまったく新しいビジネスが入ってきたことによって、もう一回大きくかき乱されているような気がする。それはこれからの可能性を考えれば、作り手としてもすごくいい刺激なのではないかと考えています。
さとう・しんすけ◎映画監督、脚本家。大学時代に監督した自主制作映画『寮内厳粛』が、ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞。市川準監督や行定勲監督の作品で脚本を手掛け、2001年の「LOVE SONG」で監督デビュー。「GANTZ」、「図書館戦争」シリーズ、「アイアムアヒーロー」、「デスノート Light up the NEW world」などの話題作を次々手掛け、2019年に「キングダム」で第43回日本アカデミー賞優秀監督賞に輝いた。最新作のネットフリックスオリジナルシリーズ「今際の国のアリス」は、12月10日より独占配信中。