──制作にあたって、視聴傾向などのデータはネットフリックス側から提示されたのでしょうか。
データではなく、最初に「今ネットフリックスではどんなものが見られているか」という大まかな傾向の提示はありました。現状を知る、期待を裏切るという意味では、非常に有効なものだったと思います。
ここ20年くらい、日本で映画をつくるときには、泣けることや恋愛要素があることが重要だとされてきました。ところがネットフリックスでは、ジャンル性があることなどが視聴者に求められているようでした。
情緒を繊細に描くものより、ちょっとえぐいパンチ強めの作品が好まれるなんて、これまでの考え方とはまるで逆(笑)。僕がいままで接してきた日本映画のプロデューサーは、ハートウォーミングで最後には泣けるものであってほしいという人がほとんどだったし、日本で映画をつくるときにSF要素のようなジャンル性が重視されるなんてことはありませんでしたから、新鮮でした。
エッジの立て方についても、プロデューサーから「そこはブレーキ踏んでもう少しマイルドに」と言われることはあっても、ネットフリックスのように「もっとアクセル全開で!」と言われることがなかったから、面白かったですよ。カラーやトーンへのこだわりだとか、暗部を重視したり、ちょっとダークな感じを出してだとか、そういう議論もしました。
でも振り返ってみたら、僕らの記憶に刻まれている「愛してやまない映画」というのは、確かにネットフリックスが言うように、とんがっていて、SF要素があって、ジャンル性が高いものかもしれなかったなと思うんです。僕自身も小さい頃から今に至るまで、見たこともないような世界観の映画に心を動かされることが多かったから、ネットフリックスのこういった考え方は、非常に僕自身のものづくりと親和性が高いと感じました。
──世界中に配信されるということを意識してつくっているのでしょうか?
それはもう、意識せざるを得ないですね。少し前まで、日本で劇場公開された映画が世界20カ国で配給が決まったとなったらニュースになっていたくらいなのに、ネットフリックスでは、世界190カ国に一斉配信されるわけですから。
今回の「今際の国のアリス」も、最初の段階から世界で配信されることを強く意識していました。これまでの「日本の映画マーケット」で受け入れられる作品をつくるというより、別の全然違う新しいマーケットに対しても刺さる作品をつくりたいという思いが強かった。世界中に1億人以上いるネットフリックスの会員が見たいと思う作品、みんなが心をワクワクさせる作品群というのがあって、そこに新しい風を日本から送り込みたいと思いました。
「今際の国のアリス」の入りのシーンも世界をすごく意識しましたね。日本の日常の描写から始まるのですが、あるときその日常が崩れる瞬間がある。その場所をどこにしようかと考えた時に、世界中のネットフリックスの視聴者が「日本」と言われて思い浮かぶ街といえばやはり渋谷ではないかと思ったんです。渋谷というのは、原作にはないのですが、僕の強いこだわりで、渋谷で撮ることに決めました。そのために、大規模なセットやCGなど、大きな予算を割いています。
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