10日間で公式上映作品は138本、公式上映動員数も4万533人と、昨年に比べ約3分の2程度の数字ではあるが(昨年は9日間で183本、6万4492人)、コロナ禍であることも考えれば、なかなかの成功に終わったのではないだろうか。
海外からの映画関係者の来日が難しいこともあり、今年は例年行われていたコンペティション部門の開催はなく、「東京グランプリ」という名称の最高賞の選出もなかった。
代わりに、従来の「インターナショナルコンペティション」「アジアの未来」「日本映画スプラッシュ」の3つの部門を統合した「TOKYOプレミア 2020」が設定され、その31本の作品のなかから、観客の投票によって「観客賞」が選ばれた。
大九監督は2度目の観客賞受賞
第33回東京国際映画祭の観客賞に選ばれたのは、大九(おおく)明子監督、のん主演の「私をくいとめて」。東京国際映画祭における観客賞は、実は今年だけではなく、例年コンペティション部門の作品から選ばれており、大九監督にとっては3年前の第30回での「勝手にふるえてろ」に続いて2度目の受賞となる。
大九明子監督(写真左)と主演ののん(右)東京国際映画祭 (c)2020 TIFF
コンペティションがなく、最高賞の選出もないなかで、今回、唯一の「賞」となった観客賞を受賞した大九監督は、受賞の喜びを次のように語った。
「コロナ禍でさまざまな困難があるなか、栄えある観客賞を受賞して、とても光栄です。今回、東京国際映画祭がリアルで開催する道を選んだのは勇気ある選択でした。スタッフの皆さんからも緊張感を感じました。そのなかでチケットを買って足を運んでくださった方たちから面白いと思っていただけるようにと、祈るような気持ちでした」
映画祭の会期中、何度も主会場の六本木ヒルズに足を運んだが、やはり観客は昨年に比べると若干少ないと感じはした。しかし主催者側の新型コロナウイルスへの対策は徹底しており、この状況下での開催に対しての並々ならぬ決意と努力がうかがえた。
観客賞を受賞した「私をくいとめて」も、実は、そんなコロナ禍での緊迫した状況のなかで撮影された作品だった。当初のスケジュールでは今年の3月中旬にクランクイン、4月中旬に撮影が終わる予定だったが、4月7日に政府による緊急事態宣言が発出されて、まさに撮影もたけなわのときに中断を余儀なくされたという。
「2カ月ほど撮影は中断したのですが、その間に脚本を書き直していました。映画館も閉まり、不要不急という言葉が飛び交いましたが、映画は不要でも不急でもないと思いたかったので、最新の注意を払いながらつくり続けていくべきだと信じていました」(大九監督)
まさに「私をくいとめて」は、今回のコロナ禍のまっただなかで生み出された作品だったのだ。しかも、「ソーシャルディスタンス」や「巣篭もり」という言葉が、わたしたちの暮らしのなかにも否応なしに押し寄せてくるなかで、実はこの作品も、人と人の距離の取り方について描かれたものだった。