世界では当たり前なこのことが、残念ながら日本ではインバウンド関係者をはじめ、ハイエンド/ラグジュアリートラベラーに対峙する多くの方々に理解されていません。
翻って世界では、アートは裕福な層のコミュニケーションや社交のツール、そして社会の課題とつながってインスピレーションを受ける源泉として認識されています。アートフェアは毎年数日間で巨額の経済効果をもたらし、グローバルアート市場はここ20年拡大傾向にあり、リーマンショック後もいち早く回復しています。
また、アートバーゼルを誘致した香港をはじめ、グッゲンハイム美術館を誘致したスペインのビルバオ、国内では直島など、アートがその街の価値の向上や地域活性に大きく寄与している例も多くあります。
このように富裕層の感情に訴え、価値をもたらし、イノベーションを起こすアートはどのような意味を持っているのでしょう。
衰退した工業都市をアートで再建させたビルバオのフランク・ゲーリー設計のグッゲンハイム美術館。Guggenheim Museum Bilbao. Maman by Louise Bourgeois Photograph taken by MykReeve
1. アートは「外交のカギ」
文化はその国や民族のアイデンティティ。歴史的にも、世界中に散らばったピカソの大作をスペインが本国に戻す努力をしていたり、エジプトが大英博物館にロゼッタストーンの返却を求めているように、文化財はその国の「アイデンティティ」を象徴するものであり、「外交のカギ」です。
中国共産党が台湾併合を目論むのも、安全保障上とは別に、そもそも蒋介石によって運ばれた中国の至宝が台北の故宮博物院の中に眠っているためというのが、文化外交的観点からの見方です。
「文化外交を考えていない政策決定者らが経済と安全保障一辺倒で世界を見てしまうと、本当の意味で文化が持つ力を見逃しがち。その民族にとって軸となるべきアイデンティティの象徴は、文化芸術に代表されるものなので、軽んじて考えられない。文化芸術は数値化が非常に難しく、効果検証も時間がかかる分野であるため、その重要性が見落とされることが多くある」と、長年日本のアメリカ大使館で文化補佐官を務めた中西玲人氏は断言します。
そのため、新興国であればあるほど、まずは自国のアーティストの作品を収集する傾向にあります。