4. アートは「投資の対象」
さらにアートは、後に価値が上がる可能性を秘めた「投資の対象」でもあります。
株券を家に飾って喜ぶ人はいませんが、アート作品は所有して愛でたり、飾って友人をもてなしたり、買い替えたり売却して資産化することも可能です。
アートバーゼルのメインスポンサーを務めるスイスのプライベートバンクUBSでは、富裕層が共通してアートを収集していることに着目し、2000年始めには、アートを世界中のクライアントと繋がるための媒介とする方針を決め、クライアントに対してアートに関する助言を行う部門も設けています。
「アートはグローバルな価値があり、成長し続ける確かな市場。2019年のグローバルアートマーケットの売り上げは、641億ドル(約6兆7500億円)に上る。アメリカ、イギリス、中国が市場を支配するグローバルマーケットの象徴でもある。また、多くの裕福な人々にとって、アートは感情を満たし、社会の変革を理解し、富を経験する手段。そこへの投資は成長し続けると思う」とUBSのロバート副社長は述べています。
5. アートは社会貢献、後世に残す自分の足跡
成功者の中には、ある程度の年齢に達すると「自分の生きてきた証はなんだろう」と考えます。その時、自身の足跡を後世に残す手段にアートを選ぶ人もいます。主要な美術館へ作品を貸し出すことは、展覧会に参画したり、多くの人々にアートに触れる機会を提供し、アート界を活性化するという社会貢献にもなるからです。
自ら美術館を所有するメガコレクターもいますが、運営維持費は高額に上るため、ほとんどのコレクターはコレクションを倉庫や自宅に置き、特定の展覧会の折に出しています。
さらに地域創生の観点で注目に値するのが、ハイエンドトラベラーがこぞって訪れる瀬戸内海のベネッセアートサイトです。
アート体験の提供のみならず、人口減少にあえぐ瀬戸内海の過疎地を、世界が注目するデスティネーションへと価値を高めています。かつて直島は亜硫酸ガスによりハゲ山になり、豊島は産業廃棄物の不法投棄、大島はハンセン病の隔離島など、日本の近代化の裏で負の遺産に苦しんできました。
「アートをやってきて一番よかったのは、『自分たちの島ってこんなにいいんだ』と島民が再び自信を取り戻してくれたこと。アートや建築以上に、訪れる人が喜ぶのは、地元の人との交流や島の美しさ。『海外からたくさんの人が来て、ワンダフル!っていわれる。やっぱすげえんやろ』と島の人たちが再び希望と生きがいを見出している。経済面でも小さな宿泊や飲食業など、新しいことを始めたり移住したいという若者も出て来ているので、大きな役割を果たせたのかな」と前出の福武氏は語ります。