ハイエンドトラベラーが旅に求める「アート」が持つ6つの意味

弘前にオープンしたての弘前れんが倉庫美術館では奈良美智作の巨大な犬の立体作品がお出迎え《A to Z Memorial Dog》2007年 ©︎Yoshitomo Nara Photo: Naoya Hatakeyama提供:弘前れんが倉庫美術館


4. アートは「投資の対象」


さらにアートは、後に価値が上がる可能性を秘めた「投資の対象」でもあります。

株券を家に飾って喜ぶ人はいませんが、アート作品は所有して愛でたり、飾って友人をもてなしたり、買い替えたり売却して資産化することも可能です。

アートバーゼルのメインスポンサーを務めるスイスのプライベートバンクUBSでは、富裕層が共通してアートを収集していることに着目し、2000年始めには、アートを世界中のクライアントと繋がるための媒介とする方針を決め、クライアントに対してアートに関する助言を行う部門も設けています。

「アートはグローバルな価値があり、成長し続ける確かな市場。2019年のグローバルアートマーケットの売り上げは、641億ドル(約6兆7500億円)に上る。アメリカ、イギリス、中国が市場を支配するグローバルマーケットの象徴でもある。また、多くの裕福な人々にとって、アートは感情を満たし、社会の変革を理解し、富を経験する手段。そこへの投資は成長し続けると思う」とUBSのロバート副社長は述べています。

5. アートは社会貢献、後世に残す自分の足跡


成功者の中には、ある程度の年齢に達すると「自分の生きてきた証はなんだろう」と考えます。その時、自身の足跡を後世に残す手段にアートを選ぶ人もいます。主要な美術館へ作品を貸し出すことは、展覧会に参画したり、多くの人々にアートに触れる機会を提供し、アート界を活性化するという社会貢献にもなるからです。

自ら美術館を所有するメガコレクターもいますが、運営維持費は高額に上るため、ほとんどのコレクターはコレクションを倉庫や自宅に置き、特定の展覧会の折に出しています。

さらに地域創生の観点で注目に値するのが、ハイエンドトラベラーがこぞって訪れる瀬戸内海のベネッセアートサイトです。

アート体験の提供のみならず、人口減少にあえぐ瀬戸内海の過疎地を、世界が注目するデスティネーションへと価値を高めています。かつて直島は亜硫酸ガスによりハゲ山になり、豊島は産業廃棄物の不法投棄、大島はハンセン病の隔離島など、日本の近代化の裏で負の遺産に苦しんできました。

「アートをやってきて一番よかったのは、『自分たちの島ってこんなにいいんだ』と島民が再び自信を取り戻してくれたこと。アートや建築以上に、訪れる人が喜ぶのは、地元の人との交流や島の美しさ。『海外からたくさんの人が来て、ワンダフル!っていわれる。やっぱすげえんやろ』と島の人たちが再び希望と生きがいを見出している。経済面でも小さな宿泊や飲食業など、新しいことを始めたり移住したいという若者も出て来ているので、大きな役割を果たせたのかな」と前出の福武氏は語ります。
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文=山田 理絵

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