いま、業界内やメディアで最も注目されている南アフリカのワイン銘柄の一つが、「アスリナ(Aslina)」だ。創業者兼ワイン醸造家でもあるヌツィキ・ビエラ(Ntsiki Biyela)は、注目の女性起業家100選の一人として、昨年のフォーブズ・ジャパンの記事でも紹介されている。
また、今年10月には、ワイン・エンスージアスト誌が選ぶ「ワイン・スター・アワード」のワインメーカー・オブ・ザ・イヤーの賞にノミネートされたほか、昨年は、日本人女性だけが選考委員を務める「サクラアワード」で金賞を受賞している。
ビエラは高校卒業後、南アフリカ航空の奨学金制度を活用して、ステレンボッシュ大学でワイン醸造について学んだ後、醸造メーカーであるステラカヤ・ワインに就職。13年間の経験を積み、2013年にアスリナを立ち上げ、2016年に起業した。
ブランドの「アスリナ」は祖母の名前に由来する。現在展開中のワインは、カベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、独自ブレンドの赤ワインであるウムササネの4種類。ウムササネはアカシアの木を意味すると同時に、祖母の愛称でもあった。海外市場は、米国、ドイツ、台湾、ガーナ、オランダ、スイス、日本の7カ国に展開。日本での販売価格は3000〜4000円台だ。
夢を叶えた家族経営ブランド
黒人家族が100%農地を所有する稀少な事業モデルが着目に価する銘柄が、ツワナ語で収穫を意味する「ムーディ(M’Hudi)」。ムーディは、ランガカ(Rangaka)夫妻が2003年に西ケープ州のステレンボッシュ近郊に土地を取得して始めたワイナリー事業。現在3人の子供もそれぞれブランド・マネージャーやマーケターとして参画しており、家族経営のブティック銘柄である。
ステレンボッシュのブドウ畑(Getty Images)
ランガカ夫妻は、それぞれ異業種から転身してムーディを始めた。事業のCEOである妻のマムシー(Malmsey)は元臨床心理士。夫のディアレ(Diale)氏は高等教育機関での教育者として、ヨハネスブルク大学ソウェト校舎の副学長としての経験も持つ。
マムシーは、幼いころに西ケープでワイン農園を見てから、ワイン農園を持ちたいという夢を抱きつづけており、リタイアを前に転身してムーディーの立ち上げに至った。ブランド・マネージャーを務める息子のツェリソ(Tseliso)も、ワイン事業に関心があり、ムーディーの事業に参画する前は、ジャーナリストとして業界誌などへの執筆も行っていた。
ムーディーの最初の大きな取引は、英国の高級スーパー、マークス・アンド・スペンサーとの独占取引契約。その後も、海外市場を中心に商品展開を拡大させた。前出のJETRO佐藤の報告書によると、ムーディーの初期の成功においては、近隣の白人経営ワイナリー、ヴィリエラ(Villiera)の手助けも欠かせない要素であり、100%黒人経営の事業でも白人事業者のサポートが重要であった点を指摘している。
現在、ムーディーはピノタージュやシュナン・ブランといった南アフリカを代表する品種のほか、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、スパークリングワインなども展開している。南アフリカでの販売価格は、一方100〜180ランド(約640〜1100円)だ(南アフリカのスーパーマーケットでは、現地産のテーブルワインなどは50ランド(約320円)前後から購入することができる)。