最後に、紹介するのがソムリエ、ティナシュ・ニャムドカ(Tinashe Nyamudoka)がプロデュースする「クムシャ(Kumusha)」だ。
ジンバブエ出身のニャムドカは、2008年にケープタウンに移住。最初の職はスーパーのベーカリー部門だったが、ほどなくケープタウンのレストランのウェイターとしてホスピタリティー業界のキャリアをスタート。その後、高級日本食レストランNobuでワインサービス担当のポジションを経験したのち、ソムリエに昇格。さらに、アフリカ大陸における最高峰のレストランと称される、ザ・テスト・キッチンにて5年間ソムリエを勤めた。
クムシャは、ジンバブエの主要言語であるショナ語で故郷やルーツを意味する単語。クムシャのワインは、ニャムドカが南アフリカのワイナリーと提携して独自のブレンドを提案して商品化を手がける。
西ケープ州ブリードクルーフ・バレーのブドウを使い、介入をできるだけ控え、自然発酵にこだわっている。ソムリエとしての経験、ワイン審査員としての経験が豊富なニャムドカだからこそプロデュースできた商品は、他の南アフリカワインとは違う個性的なブランディングが強みだ。
アスリナのビエラ、ムーディーのランガカ一家、そしてクムシャのニャムドカ。彼らの共通点は、決して黒人経営者という点だけではない。自らのルーツに対する思いと、ワインに対するこだわりが、個性豊かなワイン銘柄を生み、それが海外市場の注目を浴び、成功につながっている。
アフリカ黒人としてのルーツにこだわったワイン銘柄が、現地、南アフリカの消費者にも浸透し、こうした銘柄の持続性が保たれれば、ほかの黒人起業家がもっとワイン業界に積極参入していく動機付けになるのではないだろうか。南アフリカのワイン業界における黒人参入の動向に、引き続き注目していきたい。