出前館 エグゼクティブアドバイザー 中村利江

2020 Finalist Interview

出前館 エグゼクティブアドバイザー 中村利江

#09

「これからの世の中のことを考えると、出前館は単なるeコマースの会社ではなく、地域密着型のインフラ企業として成長していかなければならないと思っています。水道の蛇口をひねったら水が出るように、電源を入れたら部屋に明かりが灯るように、出前館のサイトを訪れれば、食品だけでなく、お客様が必要とするモノが半径3km圏内から当たり前のように届く。そんな未来を実現するための礎はつくれたと思っています」

出前館エグゼクティブアドバイザーの中村利江は、テクノロジーを生かした独自の宅配仲介サービスを発案。同社を国内におけるフードデリバリーのリーディングカンパニーに育てた最大の立役者である。現在、新型コロナウイルス感染症の影響で宅配サービスのニーズが高まるなか、デリバリー機能をもたない飲食店を強力にサポートしている。中村は、需要が増しているフードデリバリーサービスをただ、拡充させようとしていたわけではない。

「出前館は2014年あたりまでは、宅配ポータルサイトとして飲食店の代わりに出前を受ける一般的なeコマースの企業でした。しかし、このスタイルでは、登録してくださる飲食店はどうしても大手チェーンに偏ってしまいがちです。心を込めて美味しい料理を提供している全国の小さな飲食店にもフォーカスを当て、そのお店になかなか足を運べない近隣エリアのお客様の元へ料理をお届けできるシステムをつくれば、地方創生にもつながると考えました」

小中規模料理店でも
配達員を確保できる新サービス

フードデリバリーの場合、調理し立ての料理の美味しさを損なわずにユーザーへ届けることが何より大切になる。出前館がユーザーの選択できるお店を半径3km圏内と定めたのは、料理の質の低下を防ぐ目的がある。とはいえ、大きな課題がひとつ残る。小中規模の料理店が配達員を雇うのは、経営上、かなりのリスクが伴ってしまう。

「その課題を解決するために、私たちは14年からさまざまな実証実験を繰り返してきました。こうして誕生したのが新たな配送代行サービス、“シェアリングデリバリー”です。デリバリーができない20から30店舗の飲食店に代わって、出前館のドライバーが料理をお客様へ届けるという仕組みです。17年に千葉県の幕張エリアからスタートさせましたが、予想以上の反響で多くの飲食店さんが出前館に加盟してくれました。水平展開できる感触をそこで得たのです」

“シェアリングデリバリー”は瞬く間に全国各地に広がり、すでに400カ所以上に配送拠点を設けた。また、配送サービスのクオリティを高めるために、ドライバー研修を行い、テストに合格した者だけを直接雇用するのが基本。配達員が使用する電動自転車やバイクなどは常に清潔に保たれている。

リテンションマネジメントを強化したことで、配達員の社会意識、モチベーションも向上した。「安心・安全」が担保された状態で、時間通りにユーザーのもとに料理が届く。

いまやフードデリバリーに付き物となった、危険運転に対するクレームはほぼ皆無だという。配達員の評判が高まれば、出前館に加盟する飲食店の評価も上がる。常に顧客目線で考える中村だからこそ、細やかなところにも力を注いだのだろう。

人を成功に導くことが、
自らのエネルギーになる

出前館の加盟店舗数は、前年の2万を大幅に超える4万店舗を突破し、売り上げも過去最高を記録している。しかし中村は、「自社の業績よりも、自社のサービスが人々の救いになっていることに価値がある」と冷静に言う。

「私が出前館の代表に就任したのは02年です。当時は、インターネットが普及し、ECサイトが続々と立ち上がっていた時期でした。社会が大きく変容していくなかで、今後、外食産業は新たな収益モデルをつくらないと、いずれ立ち行かなくなるのは明白でした。日本の飲食店のビジネスモデルはイートインに偏っているところに問題があります。飲食業界の経営基盤の脆弱性、子育てをしながら働く女性など、さまざまな視点で外食産業のあり方を考えたとき、必ずテクノロジーを活用したデリバリーが必要な時代が来ることは想像できました」

米国や中国では、数年前からキャッシュレス決済が常態化され、ネットで注文、時間指定、決済までできるフードデリバリーはごく自然に利用されている。

「日本がそういう社会になるには、まだ時間が掛かるかもしれません。それでもこのコロナ禍でイートイン専門の飲食店が、テイクアウトやデリバリーに活路を見出そうとしているのは、非常にポジティブな変化だと私は受け止めています」

今年の11月、中村は出前館会長の座から退いた。冒頭の言葉は、出前館がこれから先、進むべき正しい道を示したものだ。3月にLINEと資本提携したのも、地域密着型の“シェアリングデリバリー”をさらに加速させるためである。

退任は、中村本人が強く希望したことだという。この20年間ひたすら走り続けてきた中村を突き動かしてきた熱源はなんだったのだろうか。

「自分が考え抜いたプランニングによって、飲食店さん、お客様双方に喜んでいただけると不思議とモチベーションが上がり、もっとサービスを向上させようと意欲が湧いてくるものです。“お蔭様で繁盛しています”“出前館がこの町に来てくれて本当に助かります”といったさまざまな声が、私の背中を押してくれたのです」

株式会社出前館

東京本社/東京都渋谷区千駄ヶ谷5-27-5 リンクスクエア11階
TEL/03-4500-9380
URL/https://corporate.demae-can.com
従業員数/267名(2020年8月末日時点)

出前館 エグゼクティブアドバイザー 中村利江

中村利江◎1964年、富山県生まれ。関西大学在学中、女子大生によるモーニングコール事業を立ち上げる。88年リクルートに入社。入社1年目でトップセールスとなる。その後、「ほっかほっか亭」のハークスレイなどを経て、2001年夢の町創造委員会(現出前館)取締役、02年に社長就任。2020年3月LINEグループと資本業務提携を締結。同年6月から代表取締役会長、11月にエグゼクティブアドバイザー。

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text by Hiroshi Shinohara | photograph by Shuji Goto | edit by Akio Takashiro