長島製作所 代表取締役社長 新宮由紀子

2020 Finalist Interview

長島製作所 代表取締役社長 新宮由紀子

#03

絶対に父の会社は継がない、
そんな思いから一転、子会社の社長に

長島製作所の創業は、新宮由紀子が生まれた3年後の1976年、得意先の倒産などもあり事業はなかなか軌道にのらず、借金が膨れ上がる状態のなかで新宮は生まれ育った。物心つくころには、自然とお金の稼ぎ方に強い関心をもつようになる。15歳ですでに松下幸之助や稲盛和夫などの経営者が書いた本を愛読、大学に入学すると飲食店の経営にも興味をもちはじめ、原価計算や回転率を考えるのが趣味になっていた。

「父は自分が好きで経営者をやっているのだから経営がうまくいかなくても仕方がない。しかし、母はもともと体が弱く、そんな母を支えるために、東京でアルバイトをしてお金を稼ぎ、実家に仕送りをしていました。会社はなくなってもいいと思っていました。なぜなら、両親がとても幸せそうに見えなかったから。それに、自分は絶対に父の会社には入らないと思っていました」

そんな彼女に転機が訪れたのは2000年。当時、東京でアパレル業に就いていた新宮は、母の介護で岩手に戻ることになる。同じタイミングで、父は新規で自動車部品事業を開始した。長島製作所の主体である事務機器部品の海外シフトが進み、さらに経営が苦しくなることが見込まれるなか、50人の社員の雇用を維持するために新規事業として自動車部品事業を始めようとしたのである。

なぜ自動車部品事業を選んだのか。それは、プレスメーカー20社を対象に、岩手県からトヨタの部品製造の打診を受けたのが発端だった。

「同業他社がリスクを恐れて踏み出せなかったところ、父だけが手をあげたんです。私の兄が、エンジニアとしての能力が高く、キーマンとして生産技術部をひっぱっていたから自信があったのでしょう。とはいえ、常識的に考えればそう簡単にはいかない事業だったんです。確立されたトヨタの世界観を踏襲しないといけないこと、技術者を確保しなくてはならないこと、多くの課題がありました」

自動車部品の製造のために子会社が立ち上げられると、その運営のすべてが新宮に任された。だが、新宮には製造業の経験がない。約10名の他の社員とともに製造ラインに入り、一から仕事を教わった。新宮は同じ年に第一子を出産したばかりだったが、経営を軌道にのせるために工場に寝泊まりする生活を余儀なくされ、自律神経失調症にもなったという。

少しずつ
会社が上向きに

2005年、新宮は父から長島製作所・前沢工場の製造部長を任された。苦楽を共にしたコープライズのメンバーを残しての前沢工場勤務。はじめは、決して居心地のいいものではなかった。当時の前沢工場のメンバーからは「社長の娘に現場のことがわかるはずがない」とよそ者扱いされたが、新宮は負けなかった。

そんな新宮の姿に、工場の社員たちも少しずつ態度が変わり始める。いよいよ新宮を中心に、職場全体の士気が上がっていった。仕事はただ稼ぐためにあるのではない。より品質のいいものをつくり、お客様に認められることに喜びがある。そんな意識を社員一人ひとりがもつようになり、品質が格段に向上した。2年間不良品ゼロが続くと、08年には品質優良賞を受賞した。

女性ならではの気づきをもとに、
環境を改善

2013年からは社内で「YKI活動」をはじめた。YKIとは「Y=やりづらい」「K=気を遣う」「I=イライラする」の略。これらに関する社員の意見を集め、業務改善を絶え間なく行うようにした。現場が暑いので扇風機をつけて欲しい、など様々な意見が集まり、これまで反映された改善策は1200件以上にのぼっているという。

17年7月に「いわて子育てにやさしい企業等」認証取得し、同年12月には地域未来牽引企業に認定、18年1月に第35回優秀経営者顕彰で受賞、同年11月には「いわて女性活躍認定企業等(ステップ2)」認定、さらに19年3月には「新・ダイバーシティ経営企業 100選」にも認定、同年11月には「くるみん」認定もされた。近年はコンスタントに女性社員が全体の3割を占め、製造業としては珍しく女性社員の多い企業として、地域でも認知されている。

仕事に家事、育児をこなさなければならない女性のために、バックアップ体制も整えている。誰かが家庭の事情などで突発的に休んだ場合には、現場のすべての作業を把握している“リリーフマン”が、そのフォローに入るのだ。そのため、製造ラインには支障が出ず、休暇が取りやすい。「リリーフマンになりたがる人もいるから、うまく機能している」と新宮はいう。

新宮の改革により、黒字回復しただけでなく、職場環境も改善され、地域からも「働き方改革を率先して行っている企業」と一目置かれるようになった長島製作所。そんな理想的な会社をつくり上げた熱源は、一体なんだったのだろうか。新宮に聞いた。

「自分の経験ですね。生まれたばかりの子どもがいながら、私はなかなか休めず、家に帰れないときもたびたびあり、文字通り不眠不休で働いていました。そんなブラックな状態は早く断ち切らないといけない。利益が出ても、社員が不幸だったら意味がない。それに、魅力的な会社にならなければ、素敵な人材も集まりません。人が来なければ、会社の成長性はゼロ。働きたいと思ってもらえる会社にしなければいけないという思いが、風通しの良い職場づくりへとつながっています」

長島製作所

本社工場/岩手県一関市東台14番地34
TEL/0191-23-3850
URL/https://www.nagashima-mfg.com/
従業員数/150名(2020年11月時点)

長島製作所 代表取締役社長 新宮由紀子

新宮由紀子◎1973年、岩手県生まれ。大学進学を機に上京、卒業後はアパレル業に就く。2000年、岩手に戻り、長島製作所の子会社・コープライズを父よりまかされる。05年、長島製作所・前沢工場の製造部長に就任。17年、「いわて子育てにやさしい企業等」認証、同年、地域未来牽引企業に認定。18年、第35回優秀経営者顕彰で受賞、「いわて女性活躍認定企業等(ステップ2)」認定。19年「新・ダイバーシティ経営企業 100選」認定、同年「くるみん」認定

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text by Ayano Yoshida | photograph by Masahiro Miki | edit by Yasumasa Akashi