オイシックス・ラ・大地 代表取締役 髙島宏平

2020 Finalist Interview

オイシックス・ラ・大地 代表取締役 髙島宏平

#08

「私たちのビジネスコンセプトは至ってシンプルです。人々が食生活によって感動的な体験を得られる。それを食卓に届ける生産者さんの価値が正当に認められる。幸せな食卓をつくるために悩んでいるみなさんの問題を解消するのが、私たちに課せられた使命です」

オーガニック野菜、ナチュラルフード、ミールキットを中心に、体にやさしい食品をネット上で販売するオイシックス・ラ・大地(以下オイシックス)の代表、髙島宏平は穏やかな表情でこう述べた。しかし、実際に推進しているビジネスは穏やかにこなせるほど容易ではないだろう。髙島はこうも続けるのだ。

「オイシックスでは、後ろめたい売り上げは1円すら計上しない。それが社内で暗黙のルールとなっています」

髙島はなぜ、そこまで、「食」に対してこだわりをもつのだろうか。

消費者目線で
ビジネスを展開する

実は、髙島がオイシックスを創業した2000年は、世界中で食の問題が頻発していた時期と重なる。日本でも、その数年後、食品トレーサビリティが強化されたのは、起きてはいけない不祥事が次々と発覚したからである。

「BSE、鳥インフルエンザ、集団食中毒……。本来、流通してはいけない食品が市場に出回り、世界中の多くの人が不安になりました。日本でも、食の安全への信頼は著しく損なわれ、スーパーやコンビニで何を買えばいいのかわからず、食への不安を感じる人がとても多かった。子どもに安心な食べ物を与えたいという、お母さんたちの最低限のニーズさえ満たすことができない世の中だったのです。こうした社会を変えたいと思って創業したので、お客様目線に立つのは当然の流れだったと思っています」

1998年、日本でもインターネットが本格的に普及し始めた頃、髙島は外資系コンサルティング会社のマッキンゼーに入社する。

「週末になると友人たちと一緒に、ネットビジネスについて語り合っていました。衣食住など生活の基盤となるような領域での起業を考え、食について調べると課題だらけ。インターネットを使えば、その課題を解くことができるのではないかと思いました。まだ、世界のどこにもないサービスなので自分自身がやるしかない。わずか2年でマッキンゼーを退職し、後先考えずチャレンジする決断を下し、オイシックスを創業しました」

ユーザーのインサイトを探り、
代わりに食材を選ぶ

だが、髙島は、すぐに壁にぶつかる。

「農家の人が自分の子どもに食べさせたいと思ってつくった野菜を世の中に広めることには大きな意義があると考え、食品宅配のネットビジネスを選びました。ところが、ニーズがあるのはわかっていましたが、インターネットで生鮮食品を買うという発想自体がない時代です。それでも私たちの強みはインターネットしかない。結果的に、会社が軌道に乗り、資金繰りを心配しないで済むようになるまでに4年の歳月を費やしました」

ECサイトの普及とともに、オイシックスのビジネスビジョンは、女性を中心に共感を呼ぶようになる。10年代にはいると、大きな飛躍を遂げた。13年に東証マザーズに上場、17年には「大地を守る会」、18年には「らっでぃしゅぼーや」と経営統合する。

「私たちが扱っている有機野菜など自然食品宅配のマーケットは上位3社合計でも5、600億円程度に過ぎませんでした。このままではごく一部のお客様向けのサービスで終わってしまうという危機感を抱きました。小さなマーケットで3社が競い合うよりも、力を合わせて4桁億円を超える市場規模を目指したほうが、日本社会にとっては有益だろうと考えました。ビジネスを通して、食の課題を解決するというビジョンは3社に共通していたので、想像よりスムーズに統合ができました。いまではとても心強いパートナーです」

情熱こそ、
アイデアの源泉

ユーザーがオイシックスに求める食とは、美味しさだけではない。子どもの丈夫な体をつくったり、忙しいなかでも自らの肌のコンディションを整えたり、家族で自然の恵みのありがたさを学んだり、食を通してそんな実感をもてることを期待しているのだ。髙島はそこにもまったく重圧を感じないのだろうか。

「私たちは、お客様一人ひとりが求める要望に応えるため、取り引き先となる農家、食材選定には厳格な基準を設けています。お客様の立場でものごとを考えるのはすでに習慣化され、私たちが食材を選んでいる感覚です。そういう意味では、私たちは食べ物を売る会社ではなく、オイシックスを使う暮らし、大地を守る会を使う暮らし、らでぃっしゅぼーやを使う暮らし、などサービスごとの暮らしを体験してもらうビジネス展開をしていると言えるでしょう」

このコロナ禍でもオイシックスのサービスは、日本中の食卓を明るく照らしている。オイシックスのミールキット、「Kit Oisix」は、必要な食材を必要な分だけ集めた、20分で主菜と副菜がつくれる、食材セット。累計出荷数は6,500万個を超えるメガヒット商品だ。このミールキットがいま、家族の絆を深めてくれると評判になっている。

「緊急事態宣言下で子どもたちが学校に行けないときに、『家庭で家庭科』という企画をお客様に提案したところ、大反響がありました。お子さんが包丁を使わずに、ミールキットを使って料理のつくり方を楽しみながら学べるプログラムです。それを見た旦那さんが料理を始めたという嬉しい声も届いています」

髙島を突き動かしている熱源は何だろうか。さまざまな展望ももっているが、最後にその問いに対する答えとなる考えを紹介しよう。

「今後やりたいと考えていることとしては、生活習慣病と戦い、食事制限されている人たちにも、体にやさしく、美味しい料理を提供したいと考えています。食の力で自然治癒力が高まったら、これほどすばらしいことはありませんから」

オイシックス・ラ・大地株式会社

本社/東京都品川区大崎一丁目11番2号 ゲートシティ大崎イーストタワー5F
URL/https://www.oisixradaichi.co.jp/
従業員数/1,688名(2020年3月31日時点)

オイシックス・ラ・大地 代表取締役 髙島宏平

髙島宏平◎1973年、神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻修了後、マッキンゼー入社。2000年6月、オイシックスを設立し、同社代表取締役に就任。13年に東証マザーズに上場、20年に東証1部へ市場変更。

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text by Hiroshi Shinohara | photograph by Shuji Goto | edit by Akio Takashiro