自然的被写体の事例
有名な事件として廃墟写真事件(※3)があります。
原告、被告ともにプロ写真家で、侵害されたと主張した原告は丸田祥三さん、被告は小林伸一郎さんです。裁判所の判断はというと、著作権侵害にあたらない、というものでした。ぱっと見た感じでは同じ廃墟を被写体としており、似ているという印象を抱くとも思えます。
丸田祥三「棄景」(1993)(左)| 小林伸一郎「廃墟遊戯」(1998)(右) 出典:丸田祥三氏ブログ
丸田祥三「迷彩」(1992)(左)| 小林伸一郎「廃墟をゆく」(2003)(右) 出典:丸田祥三氏ブログ
丸田祥三「大仁金山」(1992)(左)| 小林伸一郎「廃墟遊戯」(1998)(右) 出典:丸田祥三氏ブログ
丸田祥三「機械室」(1992)(左)| 小林伸一郎「廃墟漂流」(2001)(右) 出典:丸田祥三氏ブログ
ただし、これらの被写体は廃墟であって、被写体自体は写真家が自分でつくり出したものではありません。そのため、裁判では被写体の共通性以外の要素を主に考慮して似ている、似ていないを判断することになります。
そうすると、同じ廃墟を被写体としており被写体は共通していても、構図や背景、撮影時季が異なることを裁判所は重視して、侵害ではないと判断しました。
もうひとつ、Sahuc v. Tucker(※4)というアメリカの事例を紹介します。
Sahuc v. Tuckerは、ルイジアナ州ニューオーリンズのジャクソン広場にあるセント・ルイス大聖堂を被写体とした2枚の写真を巡る事件です。1枚はプロフォトグラファーのLouis Sahucさんが1999年に撮影した「Decatur Street Gate」という作品。被告となったLee Tuckerさんも「Breaking Mist」という作品を2001年に撮影し、この2枚の写真の類似性が争点となりました。
Louis Sahuc, Decatur Street Gate (1999)(左)| Lee Tucker, Breaking Mist (2001)(右) 出典:PACA, “Copyright/Copywrong in Image Licensing,” January 8, 2008
この事件では、Tuckerさんが撮影前に、Sahucさんの「Decatur Street Gate」を見ていたことは争いがありません。さて、どうでしょうか?