裁判所の判断は、非侵害です。光や被写体の配置、構図が異なるというのが主な理由としてあげられています。被写体は、セント・ルイス大聖堂という既存のもので、写真家がつくり出したものではないので、自然的被写体です。そのため、被写体の共通性以外の要素を中心として似ているかを検討しなければなりません。そうすると、2枚の写真では、光の加減や構図が異なるし、霧のかかり具合も違う、ということになるでしょう。
自然的被写体の判断事例をみてきました。これらと異なり、人為的被写体では、被写体の共通性、類似性も重要な要素になります。ですが、被写体の共通性だけで侵害となるわけではありません。やはり構図、光の加減などのその他の要素の類似性も考える必要があります。具体例をみてみましょう。
人為的被写体の事例
法曹界で有名なのは何と言っても西瓜写真事件です。
写真家である原告の黄建勲さんが写真集として発行していた写真「みずみずしい西瓜」を侵害されたと主張して、被告の写真が掲載されたカタログの差止めや損害賠償を求めました。
この事件では、一審の東京地裁は両写真の類似性を否定して原告の請求を認めなかった(※5)のに対し、控訴審の東京高裁はこの判断を覆し、侵害を認めました(※6)。
黄建勲「みずみずしい西瓜」(左)| 被告写真(右) 出典:東京高裁判決別紙
ただし、この西瓜写真事件の経緯にはやや特殊な事情がありました。被告は写真の撮影経緯について、旭川市に果物写真の撮影に赴き、付近の西瓜畑にあった西瓜を独自の着想によって撮影したと主張していたのですが、控訴審で被告の写真に写っている楕円球の西瓜のようなものは西瓜畑にあるはずのない冬瓜であったことが判明したのです。
東京高裁は、被告が、原告の写真に依拠しない限り、到底、被告写真を撮影することができなかったとまで断じています。このような経緯が裁判所の怒りを招いたとも思え、この事件を根拠にこの程度似ていれば侵害である、という意味でのベースラインとするのは、抵抗があります。
冒頭の写真に戻れば、「本日の浮遊」とリプトンの「ココロふわりキャンペーン」写真の共通性を考えると、たしかに浮遊写真で構図もモデルの浮遊の体勢も似ているのですが、著作権侵害ではないという結論になると思います。撮影場所、背景、モデルのファッション、全体的な色合いなど似ていない点が多いためです。