近年では社会貢献活動の一環として、ボランティアを取り入れている企業も多い。ベニオフは、そんなボランティアについて「問題意識を持った非常に多くの要因について支援できるのは素晴らしいこと」としながらも「散発的なやり方では意味のある効果を出せていないのではないか」と疑問を投げかける。
「今日の労働力に対応するだけでは、もはや十分ではない。明日の担い手も育成するために、一生懸命に取り組む必要があるのだ」というベニオフの考え方に触れて、平野はAI事業においてキャリアサポートの可能性についても考え始めたという。
「AIができない仕事として、『クリエイティブ』『マネジメント』『ホスピタリティ』の3つが挙げられます。AIにより、一時的に仕事を失ってしまう可能性のある方に対しては、この3つをサポートしていく教育プログラムの仕組みを将来的に作れたらとも思います。社員に対しては、シナモンの事業を通じて『私たちの次の世代のために、明るい未来をつくっていかなくては』と伝えていますが、この点は共感してくれています」
「会社の成功」と「社会貢献」の壁を乗り越える方法
社会に良いことをするにしても、持続可能でなければ意味がない。企業には、どんなことができるだろうか。
松岡は「ビジネスが世界を変えるために最も良いプラットフォームである」というベニオフの考え方に最も共感したというが、それは同時に壁もあると感じている。「成功」と「社会に貢献すること」は対立軸ではなく、同軸と考えるべきだと理解しながらも、両立することは簡単ではない。
その点について、松岡は「ビジネスにおける成功や成長を表す数字を追い求めると、成長したことで経済格差を助長する当事者になってしまう」と指摘する。
WELY CEO松岡奈々
その壁を乗り越えるためにも、松岡は「表向きに見える数字や社会貢献の裏に隠されている出来事への想像力が大事」と述べる。これは「巨大なスケールで社会貢献をする方法」としてビジネスの可能性を信じるベニオフとも通じる考えだ。
世の中にサービスを提供し利益を得るだけではない、より大きな役割を企業が担う未来に向けて、ベニオフは本書でこう締めくくっている。
「世界中のCEOと企業が、最も複雑なビジネス上の問題を解決する際に使うのと同じ着眼点やイノベーションを、最も複雑な社会的問題の解決に適用する未来を想像してみてほしい。すべての人が世界をより良い場所にするために自ら尽力するアクティビズム文化を私たちが一緒に創出していけば、そうした未来を現実のものにできるのだ」
たった一人のカリスマが世の中を変える時代は終わった。仲間と未来に向けて共通のゴールを設定し、共に前に進めることができる人こそ、社会を変える「トレイルブレイザー(開拓者)」になれるのだろう。