類型論が偏見を生んでしまうことも
理学部D:「血液型性格判断」も、たった四種類の「A型・B型・AB型・O型」の血液型で性格が決まると言っているわけだから、とてもサイエンスとはいえませんね。「O型タイプ」というだけで何千万人もいるわけだから、あまりにも杜撰なタイプ分けとしか言いようがない。
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心理カウンセラー:さきほど話した精神分析医ユングは、人間を「外向型」と「内向型」の二種類に大別した。さらに彼は、物事を論理的に捉えて理屈で判断する「思考タイプ」、自分の好き嫌いや喜怒哀楽を重視する「感情タイプ」、物事を理屈抜きに捉える「感覚タイプ」、物事の本質を閃きで捉える「直観タイプ」の四種類に分類した。
つまり、ユングは人間を2×4の8種類に分類したんだけど、あなたたちは、自分をどのタイプと思うかしら?
文学部A:その分類だと、私は「内向型─感覚タイプ」のような気がします。でも「内向型─直観タイプ」かもしれません。
法学部B:僕は、「外向型─思考タイプ」かな。というか、それが僕の「理想自己」なんだよね。
経済学部C:私は、「内向型」でも「思考タイプ」でもないことは明らか。「外向型─感情タイプ」になるのかな。でも「外向型─感覚タイプ」の面もあるし、「外向型─直観タイプ」かもしれない。
理学部D:いやいや、とてもマトモな分類とは思えませんね。僕は「内向型──思考タイプ」に分類されるのかもしれないけど、「感情」や「感覚」がないわけではない。そもそも「直観」が何を意味するのかも明確に定義されていないし......。
医学部E:D君の言うとおりですよ。ユングは、かなり有名な精神分析学者だと教科書に登場しますが、こんな占いのようなタイプ分けを主張していたとは、驚きましたね。
心理カウンセラー:それに気付いてほしかったのよ! 世の中には、「あなたは◯◯タイプ」と決めつける「類型論」が溢れているんだけど、これらはすべて極端な「ステレオタイプ」と思って間違いないわ。
経済学部C:「ステレオタイプ」って、どういうことですか?
心理カウンセラー:少数に当てはまる事例を、全体に当てはまるに違いないと信じ込んでしまうこと。私たちは「認知バイアス」と呼んでいるんだけど、ユングのような専門家たちでさえ、この種の「偏見」を抱いてしまうことも多いのよ。
理学部D:「アメリカ人は◯◯だ」とか、「中国人は◯◯だ」と決めつけるのがステレオタイプ。何億人もの人間のことを、たった一言で言い表せるわけがないじゃないか。この種のステレオタイプが嵩じて、ヘイトスピーチのようになってしまうこともあるから、僕らは注意しなければならないんだよ。
(本稿は、高橋昌一郎著『自己分析論』(光文社新書)の一部を再編集したものです)