新型コロナの「感染経路を絶つのは難しくない」 専門家に聞く新常識

聖路加国際病院「QIセンター」感染管理マネジャーの坂本史衣氏。


働き盛りの50代でも重症化 後遺症を残すことも


太刀川:かつて新型インフルエンザの呼び方が途中で変わったことがあると記憶しています。今回の新型コロナウイルスの場合も、将来的にウイルス自体が風邪の一種に変化するようなことは考えられるのでしょうか。


デザイン事務所「NOSIGNER」代表の太刀川英輔氏。

坂本:インフルエンザの場合、A型、B型、C型、D型とあり、このうち人に感染するのはA型、B型、C型です。さらに毎年季節性インフルエンザとして流行するのはA型とB型です。A型は5~10年くらいの間隔で大変異、つまりフルモデルチェンジをして新型インフルエンザになります。名前がないうちは「新型インフルエンザ」と呼ばれますが、そのうち正式な名前が決まり、通常はやがて「季節性インフルエンザ」となります。

しかし新型コロナウイルスの場合、これからどうなるのか誰にも分かりません。ウイルスが何世代にもわたり感染を繰り返したあと、普通の風邪のウイルスになる可能性もなくはないですが、これもまだ分かりません。ですので、私たちがやらなくてはならないことは、少なくともワクチンや治療薬といった手段を手に入れるまでは、生活のしかたを少し変えて感染症のリスクをうまくコントロールしていくことです。

ただの風邪ではないかという人もいますが、データ上の話だけでなく、やはり病院にいて実際に患者さんを見ていると、普通の風邪ではないということがよくわかります。働き盛りの50代~60代、場合によっては40代やそれより若い人であっても、特に基礎疾患や肥満のある場合は重症化し、亡くなることがあります。また、深刻な合併症や後遺症を引き起こすことを考えても、ただの風邪とは違うのです。

ただし、麻疹のように感染力がとても高いわけではなく、80%の感染者は誰にもうつさない。残りの20%が、ウイルスにとって伝播の好条件が揃った状況で、複数の人へ感染させることがあります。そして感染者のうち、約20%が重症化し、さらにその一部の方が不幸にして亡くなります。

では、経済を回しながらこのウイルスとどう付き合っていくのかを考えるときに、例えば弱毒化するといった確約のない未来のことを考えることはあまり意味がないのではないでしょうか。大事なのは、いま感染者数を減らすために何ができるかを考えることで、それは既に知られているウイルスの感染経路を絶つことです。そして、その方法は難しくはないのです。


「PANDAID」は新型コロナウイルスに関する科学的な情報をわかりやすくヴィジュアル化する活動を行なっている

最も注意すべきなのは「飛沫感染」


岡部:感染経路を断つことは決して「難しくはない」と専門家の方に仰っていただけると、少し安心できる気がします。具体的にはどのようなことを徹底していけば良いのでしょうか。

坂本:例えば、こうして近くで、向かい合って話しているときに、マスクなしでおしゃべりをしないこと。つまり、飛沫を飛ばさないこと。そのようなシンプルなことでよいのです。

さきほど述べた通り新型コロナウイルス感染症には3つの感染経路(飛沫・接触・空気)があります。感染予防のためにはこれらの感染経路を断てばいいので、何事もやり過ぎる必要はないし、感染経路ではないところを過剰に気にする必要はないのです。しかもこの3つの感染経路の重要度には軽重があり、最も大切なのは飛沫感染を起こさないようにすることです。
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文=岡部 美楠子

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