感染症とテーブルマナー フィレンツェでの「食の学び」

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新型コロナウイルスが猛威を振るい出してからおよそ半年が経った9月、ふと感染症と社会の歴史を学びたくなり、イタリア・トスカーナ州のフィレンツェを訪れました。

フィレンツェといえば、芸術や文化が花開いたルネサンス発祥の地で、世界の美しい都市の一つと言われる街。当時、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロ、ジョスカン・デ・プレ、ジョバンニ・ガブリエリなど素晴らしい芸術家や音楽家、建築家たちが活躍しましたが、多くの歴史学者たちは、ルネサンスの始まりには「ペスト(黒死病)」が大きく関係していると説いています。

14世紀に大流行したペストは、当時のヨーロッパの人口を3分の1にした感染症と言われており、フィレンツェでも人口の半分近くの人が亡くなりました。

人々が悲しみに暮れるなか、宗教信仰による教会中心の拝金主義や封建的制度の崩壊が加速。教会中心ではなく、人間らしさを追求する意識が動きが政治や芸術にも浸透し、新たな機会が生まれ、創造性が刺激されたことでルネサンスが発展していきました。


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また、この時代、食文化にも大きな変化がありました。

それまでのヨーロッパは、食器といえば木や錫でできた皿程度で、そこに盛ったものを手で食べたり、固いパンの上に料理を乗せて食べたりしていました。中世ヨーロッパでは、食べ物に触れていいのは人間の手のみであり、道具を使うのは神への冒涜だという考えがあったためです。

しかし、感染予防のためなのか、この時代から食器として陶器が使われるようになり、個人用のテーブルナイフやフォーク、スプーンなどのカトラリーも普及しました。また、テーブルクロスやナプキンなどを使用し、手や口などを拭きはじめたようです(もちろん衣類が汚れないためでもありますが)。

それはすなわち、現在の西洋料理のテーブルマナーの基礎とも言えるもの。現在は、「食事中に相手を不快にさせないため」などと少しこむずかしいイメージが強いマナーですが、その始まりは「食事からの感染を避けるため」でもあったと考えられています。
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文=松嶋啓介

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