東京大学薬学部教授であり、大脳生理学を専門とする池谷裕二氏によると、マウスを使った実験では「まったくの無音状態で何かを学習させる」ことはできないという。
マウスの学習効果を高めるには、「ザーッ」というホワイトノイズ(それなりに広い範囲で同程度の強度となっている音。テレビの砂嵐音など)を聞かせることが効果的だ。このことから、池谷氏は「ヒトもそれくらいの雑音があった方が学習は進むだろう」と話している。
「カフェだと集中できる」の真意
また、日本騒音調査によると、環境音により騒音が「ただの音」としてしか認識されなくなる効果が期待できるという。これをマスキング効果と言い、2つの音が同時にあるとき、片方が鳴っているのに聞こえなくなるという現象だ。
ここでいう環境音とは、オフィスの喧騒だけでなく、たとえば川のせせらぎや鳥のさえずりなど自然の中にある音や、街の喧騒といった日常の中に馴染んでいる音が主に当てはまる。また、こうした環境音の中には、リラックス効果があるといわれる「1/fのゆらぎ」を有しているものも多い。
こうした話を聞くと、「オフィスの喧騒が恋しい」と感じたり、「カフェだと集中できる」と感じる人がいるのも納得できる。
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「ざわつき音」は、たしかにオフィスに存在していた。しかし、その音を自分で「選ぶ」ことはできなかった。オフィスでは、突然不快な音が聞こえたり、おしゃべりな同僚に話しかけられて集中力が切れてしまった、なんてこともあっただろう。
今、テレワークにより、オフィスの喧騒を自分で選んで「デザインする」ことができるようになったのは、とても贅沢なことなのかもしれない。