これについてSNSでは「誤解を生む発言だ」と、懸念の声が広がった。
そもそもワーケーションとは、旅行や観光をすることが目的ではなく、休暇を楽しみながらテレワークを活用する働き方のひとつ、一部のノマドワーカーなどが実践してきた考え方だ。それを観光地の活性化に繋げるという政府の狙いに、疑問の声が挙がったのだ。
ワーケーションなどの研究をしている山梨大学生命環境学部の田中敦教授に、その定義や課題などを聞いた。リモートワークも浸透しつつあるいま、ワーケーションは新たな働き方として広まっていくのだろうか。
ワーケーションの目的は「働く」より「休む」
ワーケーションという概念は「欧米から持ち込まれたものだと言われるが、そもそも一般的な用語ではない」と、田中教授は指摘する。英語表記も「Workation」や「Workcation」などと、ばらつきがある。
元は、多忙なアメリカのビジネスマンにもっと休みを取りやすい環境にすべきだ、と休暇を取るための1つの手段として考え出されたもの。外せない会議や仕事に追われて休みを取れない人が、旅先で必要最小限の仕事をこなすと同時に家族との時間も楽しむ、という休むことに重点を置いたワークスタイルなのだ。
しかし、言葉自体はそれほど浸透しておらず、定義も自由に解釈されているがゆえに混乱も起きている。2015年9月から2020年7月までにGoogleで「ワーケーション」に関連する単語が検索された回数の推移をみると、世界でもほとんど検索されていない。
下の図のように、今年7月に大きく伸びているのは、先述の官房長官の発言をきっかけに日本で検索された回数だという。一方で、旅をしながら働く人を指す「デジタルノマド」の検索数は海外を中心に比較的多く検索され、注目されているのがわかる。「欧米ではみんなワーケーション制度を利用している」と言う人もいるが、これもまたワーケーションにまつわる誤解だとわかる。
「Workation」のトレンドを表す水色のグラフが2020年7月に跳ね上がっている。赤、黄色はそれぞれ「Workcation」「Worcation」の結果(Googleトレンドより)
同じように「Digital nomad」を検索すると、その注目度の差は一目瞭然だ(Googleトレンドより)