このような地域密着のボランティア活動は、企業で働く社員にとっては参加しづらい。企業がこのような機会を社員に提供することで、有給休暇を消化せずに課外活動に参加でき、新たな自分を発見する機会にもなる。結果的に社員の満足度にも繋がるということだ。
「近年は、ワークとライフのバランスが重視されてきましたが、これからはソーシャルやローカルな繋がりも大切にしたい人が増えてきます。2011年の東日本大震災の後のような、地域のコミュニティを求める傾向です。今ではオンラインで距離も超えられるし、ワークとの重なりに価値観を見いだす人のワーケーションの利用が増えるでしょう」
また、リモートワークで1度も出社していない新入社員などが多くいる中で、このような制度は社員のウェルネスやモチベーションの維持や向上といった効果も見込める。より自由な働き方の選択肢として、また福利厚生として「ワーケーション」を導入する企業が増えるかもしれない。
自由で自律的な働き方を好む社員の採用やリテンションといった人材戦略などの観点からも、地方や従業員に広く良い効果を与える可能性のある制度として、これからもっと導入に向けた積極的な議論がなされるだろう。
「一定期間どこか違う場所に留まり、働くことでいろんな人と繋がり、セレンディピティを活かせる可能性が大きい。そのベースとなるインフラとして、ワーケーションという考え方が広まってほしいですね。オフシーズンには通常の観光客が来ないのは世界共通の課題ですが、ワーケーションをきっかけに年間を通じて多様な人が集まり、地域の人々との交流と新たなケミストリーやイノベーションが創り出されていく。こうした新しい世界のモデルとなるような居心地の良い場づくりに、日本がチャレンジしていってほしいと思います」
田中敦◎山梨大学 生命環境学域教授 社会科学系長・地域社会システム学科長。JTBに入社し、教育旅行、MICEや米国本社・欧州支配人室勤務等を経験。00年、本人出資型社内ベンチャーとしてJTBベネフィットを起業し、30歳代で取締役に。その後、グループ本社事業創造本部、JTBモチベーションズ、JTB総合研究所等を経て、16年国立大学法人山梨大学の観光政策科学特別コース新設を機に現職。