本来輸入規制の対象魚はEUのように全魚種を対象とするのが理想だが、アメリカが課題を残した形で現在13魚種に限定しているように、現実的で確実な出発も重要だ。一方、国内漁獲証明の対象は違法漁業でシンボリックなアワビとナマコだけやれば良いだろうという意見もあるが、最終的にはリスクのある種すべてを対象とするのが望ましい。これからが政府、関係省庁、漁業関係者らの一致協力の腕の見せ所である。
また、漁獲証明を発行するのは公的機関であるべきで、例えば現場で対応する漁連などが発行するだけなら、それは漁獲報告というべきではないか。それを現場や行政の負担を抑えつつ公文書化するシステムを構築することが喫緊の課題でもある。
新法施行においては事業者の負担軽減は重要なので、漁獲報告や証明の電子化や、ICTやIoTを有効利用した効率化、迅速化が必要である。これからの漁業は、現場の負担をテクノロジーが課題解決し、スマートで若い世代でも意欲が持てる先端技術を駆使した楽しいものでなければならない。これにより、新たなビジネスチャンスが生まれ、ブルーエコノミーの実現に一歩を踏み出せるのだ。
実は日本でも既に厳しい漁獲証明が義務化されている魚種がある。遠洋漁業による大西洋クロマグロとミナミマグロだ。大西洋クロマグロにはICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)による厳しい国際間の漁獲規制があり、オブザーバーの乗船、日別漁獲数量、操業終了届出、国外陸揚げ予定など、水産庁への詳細な報告が務付けられている。
先般、世界で初めてクロマグロで世界一厳しい漁業認証であるMSC(Marine Stewardship Council、海洋管理協議会)の認証を取得した、宮城県気仙沼市で5代にわたってマグロ漁業を営む臼福本店では、電子タグも導入している。規則に違反すると漁業ライセンス剥奪や刑罰など厳しい罰則がある。
しかし現状ではクロマグロからタグを外して解体した途端、IUU漁業によるマグロとの見分けがつかなくなる。そこで、漁獲証明制度によってサプライチェーンから末端に至るまでしっかり由来を証明できる、フルトレーサビリティの制度も今後は必要になってくるのだ。
この2018年12月の改正漁業法成立から始まった漁業改革は、何よりも、誠実に漁業を続ける漁業者が自らのビジネスを違法な漁業者から守ることができ、計画的な管理漁業を行って、データに基づき、適宜、漁獲をコントロールすることによって、持続可能な漁業を営むことをめざすものなのだ。
振り返れば2019年6月、安倍総理のリーダーシップのもと、G20大阪サミットが開催された。その折の首脳宣言には、明確にIUU漁業の撲滅が織り込まれていた。
G20では農業大臣会合が予定されていたが、水産を議論できる大臣は6名ほどしかいなかった。そこででき得るのは宣言に盛り込むことだということで、G20首脳宣言(大阪宣言)40番には、IUU撲滅について、「違法・無報告・無規制(IUU)漁業は、世界の多くの地域において、引き続き海洋の持続可能性にとって深刻な脅威となっているため、我々は、海洋資源の持続的な利用を確保し、生物多様性を含め、海洋環境を保全するために、 IUU漁業に対処する重要性を認識しIUU漁業を終わらせるという我々のコミットメントを再確認する」と明記された。
当時、筆者はそれを感慨深く何度も読み返した。そして、いまも日本人として、当時の安倍内閣でこの件に関わってくださった方々の対応を誇らしく思う。
いま7年8カ月の長きにわたった安倍政権が幕を閉じようとしている。前述のように、その間に強い官邸のリーダーシップで水産行政に風穴を開けた改正漁業法は、安倍総理が未来の日本への責任を果たした賜物である。
この機運を引き継いで、IUU対策法とも言える、漁獲証明、輸入規制の法制化に、新政権が全力で取り組むことを期待する。
連載:海洋環境改善で目指す「持続可能な社会」
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