経済・社会

2020.08.12 14:30

アメリカの根深い貧困を象徴するスクイージーキッズたちの明日

停車した途端に駆け寄って窓を拭くスクイージーキッズ(Rob Carr / スタッフ/Getty Images)

停車した途端に駆け寄って窓を拭くスクイージーキッズ(Rob Carr / スタッフ/Getty Images)

「スクイージーキッズ(squeegee kids)」という日本人にはあまり聞き慣れない言葉がある。「洗車少年」とでも言うべきもので、クルマが信号で停車すると、歩道から一気に駆け寄ってきて、ガソリンスタンドのサービスよろしく窓に洗浄液をスプレーし、ワイパー棒(スクイージー棒)でさっと拭くというサービスを行い、数ドルのチップを稼ぐという子供たちのことだ。

東海岸のメリーランド州ボルチモア市で、この古くからの小遣い稼ぎの手法が、最近ドライバーたちと次々にトラブルを起こし、発砲事件にも発展して、全米の注目を浴びている。

歩行者が車道のなかに走り寄るわけだから、極めて危険であり、無許可の商売であることからも明らかに違法だ。筆者もクルマの運転中に遭遇したことがあるが、慣れていないと、突然、目の前にスクイージーキッズが顔を出すとびっくりする。

スクイージーを追放できないボルチモア市


1980年代にはスクイージーキッズは、アメリカの大都市のいたるところにいたが、取り締まりが強化され、近年はめったに見られなくなった。軽微な犯罪でも取り締まりの強化こそが、問題を解決する王道だとする考え方は、ルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長が植え付けたと言われている。

現在はトランプ大統領の参謀兼弁護士も務めるジュリアーニだが、1993年、市長に当選した途端、スクイージーキッズをニューヨークから追放するという大キャンペーンを行った。自伝によると、その強硬な手法はスクイージーキッズを見かけたら、片っ端からジェイウォーキング(交通違反歩行)で逮捕してしまえというものであり、この強硬策は、当時は猛反発にあったが、いま、あのときをふり返ってやり過ぎだという人はいない。

では、ボルチモア市はなぜスクイージーキッズを追放できないのか。追放できないどころか、2年前から増加傾向にさえあり、AP通信によれば、現在ボルチモア市には約100人のスクイージーキッズがいるという。年齢は14歳から21歳までで、ほとんどアフリカ系アメリカ人の貧困家庭の子供たちで構成されているという。ボルチモア・サン紙の取材では、8歳や10歳の子供もいるという。

スクイージーキッズの数が増え、情報交換や競争も始まってくると、彼らはますますサービス競争に拍車がかかり、まだ信号が赤になってないうちから交差点に飛び出したり、中央分離帯にへばりついて待機したりしているという状況も見られる。
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文=長野慶太

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