アメリカの根深い貧困を象徴するスクイージーキッズたちの明日

停車した途端に駆け寄って窓を拭くスクイージーキッズ(Rob Carr / スタッフ/Getty Images)


いい大人が、やはり交差点で「わたしはホームレスです」と書いた紙を掲げて、車列の脇を歩いて物乞いをするシーンが、全米各州で例外なく見られるが、スクイージーキッズは少なくとも労働を提供しているし、洗浄液は本物だ。

それに、自動車立国のアメリカでは、大昔から道路脇で夏の夕暮れに冷たいレモネードやアイスティーを売って小遣いを稼ぐ少年少女の勤労を褒める習慣があり、ロードサイドは子供たちの小遣い稼ぎの場としての認識がないわけではない。

ボルチモアは、郡組織を上部に持たない「独立市」として、全米最大の60万人の人口を抱える190年の歴史ある都市だ。専門誌から世界一の病院と評価を受ける3万人の職員を抱えるジョンズ・ホプキンズ病院をダウンタウンに持っている。

その一方、かつてこのコラムでも取り上げたが、過去3人の市長のうち2人が収賄で逮捕されているように、政治に対する不信が高いという一面もある。粗末な服を着た目の前の飢えた子供たちを、政治が救ってくれるとは誰も思っていない。

これ以上のスクイージーキッズは、市の経済力さえ貶めると財界からの声が上がり、いよいよボルチモア市は単に禁止するのではなく、街の美化計画を制定し、約2億円の予算を投じ、ダウンタウン地区の清掃としてスクイージーキッズたちを土曜日に雇い、50人程度に4時間の仕事と昼食を与えるという政策を打ち出した。

また、警察が25人ほどのスクイージーキッズを連れて、安全な場所で臨時の手洗い洗車サービスを開業させ、安全にお金を稼ぐ別手段を考えさせるきっかけにもさせている。

かねてからこのコラムで指摘しているように、アメリカの貧困は奥が深い。スクイージーキッズたちが、ホームレスになって物乞いをするか、あるいは麻薬密売人の門を叩いてドラッグディーラーとなるか、それとも起業精神の種を身に播き、明日のアントレプレナーになるか、窓ガラスの後ろで、ドライバーたちは複雑な思いで彼らを見つめている。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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