経済・社会

2020.03.02 07:30

気仙沼の復興のシンボル、最新マグロ漁船が目指す持続可能な漁業

第一昭福丸

2020年2月、気仙沼港でエッジの効いたデザインが目を引く船が、竣工式を迎えた。地元の気仙沼で5代にわたってマグロ漁業を営む、臼福本店の臼井壯太朗社長が手がけた遠洋マグロ船、第一昭福丸のデビューだった。

気仙沼は、2011年の東日本大震災で大きな被害を被った。臼井社長は、あの日、全社員を引き連れて裏山に避難した。社員の1人、大和田暢宏は次のように語る。

「山の上から気仙沼港を見下ろしていました。岩手方面から押し寄せた津波の黒い濁流が油の備蓄タンクにぶつかり、夜になると油に引火して真っ赤な炎が海を覆い、町をも襲っていきました。船という船が流されて転覆し、炎に焼かれ、建物に突き刺さり、田んぼに転がり、皆が船を失いました」



臼福本店の本社ビルは、いまようやく建設中である。9年を経ても、まだ復興は成し遂げられていないのだ。

そんな気仙沼で竣工した第一昭福丸は、世界の有名ブランドのプロダクトデザインを手がけるnendoと乃村工藝社がボディとインテリアをデザイン、ルームフレグランスはトム・フォードのパフュームなどを手がけるクリストフ・ロダミエルが担当、陸上と同等のインターネット環境とスタイリッシュなラウンジを備え、外見には漁船の姿を残しながらも、その実は最新鋭のクルーザーのような船だ。



さらに、遠洋マグロ船としても、気仙沼からケープタウンをまわり、スペインのカナリア諸島のラス・パルマスを抜け、世界を股にかけて、はえ縄漁業を操業するための最新の漁業設備も搭載している。

科学に基づく持続可能な漁業とは


なかでも最も革新的なのは、この船こそが、北東大西洋クロマグロはえ縄漁業においては世界初、国際的にも信用が高く「持続可能な漁業」を行う漁業者を認証しているMSC(Marine Stewardship Council、海洋管理協議会)の認証取得に挑戦している船だということである。

2018年7月に始まった審査は、乗船調査、聞き取り調査、専門家による報告書の査読、関係者からのパブリックコメントなど長いプロセスを経て、現在ようやく最終段階に来ている。

臼井社長はその困難な挑戦に至った理由について、次のように語る。

「正直なところ、弊社もひと昔前までは資源管理などという概念は持たず、漁獲枠を守らず漁業をしていました。ところが世界中で乱獲によってクロマグロの資源が激減し、絶滅危惧種に指定され、われわれ漁師もその激減ぶりを肌で感じるようになっていました」
次ページ > 漁獲規制により、資源量がV字回復

文=井植美奈子

ForbesBrandVoice

人気記事