経済・社会

2020.08.31 07:00

礼拝かコロナか。第2波を生んだ韓国「異色教会」祈りの裏事情

Chung Sung-Jun/Getty Images


こうした状況は、日本に住む私たちには理解しにくい点が多い。教会に通う人も多くないし、政教分離が当たり前だと思っているからだ。
advertisement

韓国はアジアでは、フィリピンに次いでキリスト教信者が多い国だとされている。韓国統計庁によれば、2017年時点でキリスト教信者はカトリックが約390万人、プロテスタントが約970万人で計1300万人以上になり、全人口の4分の1を占める。日本統治時代や戦後の軍事独裁政権下で抵抗運動の先頭に立ったことから戦後、信者が急増した。米国から宣教師が多数、韓国に派遣され、教会が朝鮮戦争で荒廃した国土の復興の拠点になったこともあった。

これだけ大勢の信者がいれば、政治家も放っておかない。選挙のたびに、候補者が教会を訪れる風景は珍しくないし、逆に積極的に政治に介入する教会関係者も大勢いる。特に、プロテスタント系は教会同士の生存競争が激しいほか、布教活動に熱を入れる余り、政治活動にのめり込む牧師も多いとされる。韓国で政教分離が難しい理由がここにある。

そして、教会は、様々な社会的な難題に疲れた韓国の人々を癒やしてくれる貴重な場所になっている。ソウルで300人規模の教会に通う知人の場合、毎週日曜日の午前10時過ぎに教会に出かける。礼拝は、賛美歌の斉唱、牧師による説教、献金、信者同士のあいさつなどの順で、1時間30分ほど続く。その後、信者同士が集まって昼食を1時間くらいかけて摂る。
advertisement

コロナ感染で、若い人を中心に教会に行くのを避ける信者もいる。知人は「コロナのせいで、礼拝する人が3割くらい減ったと、信者同士で話している」と話す。でも、逆に「コロナの感染が拡大したり、国が難しい状況に陥ったりしているときだからこそ、もっと祈るべきだという気持ちにもなってくる」と語る。そして、「礼拝はいつでもどこでもできるが、やはり教会で礼拝するのが一番良い」とも話す。

知人たちは、教会は単なる場所ではなく、キリストが遣わされる場所だと考えている。神聖な場所で、一緒に集まって礼拝することが、基本的な義務だと考えている。「家族と同様に、教会が最も重要な社会的な共同体単位になっている。場合によっては、血を分けた兄弟よりも強い連帯を感じることもある」と話す。民主化闘争の際に、教会が市民を守った歴史も影響しているという。

一方、前述した500人規模の教会に通う知人によれば、礼拝に通う信者の7割が女性だという。特に40代以上の中高年層が多い。「韓国は長く男尊女卑の習慣が残り、女性は社会的に隔絶されていた。教会は社会的なネットワークを作る貴重な場所になっている」と話す。また、別の知人によれば、韓国では、貧しかったり、競争社会に敗れたりしてストレスを抱えた人が大勢いる。現世での御利益を求める人も多く、「奇跡」が起きたと噂になった教会が急拡大するケースもあるという。

確かに、韓国は自殺率が高いなど、ストレスフルな社会だと言われる。小学生のころから夜遅くまで塾に通い、社会人になれば数少ない大企業の椅子を奪い合う。「ヘル朝鮮」と言われるほど激烈な競争社会であることが、教会に救いを求めたくなる信者を増やす背景のひとつにもなっているようだ。もちろん、礼拝してもらわないと献金が集まらないという教会側の事情も重なっている。

コロナは人々から様々なものを奪っていく。韓国でも日本でも、日常が戻ってくるのはいつの日になるのだろうか。

文=牧野愛博

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事