AR(拡張現実)技術を搭載したこの地図アプリがグーグルマップと異なるのは、ナビケートする目的地がレストランではなく、テロリストのアジトである点だ。「ミスは命取りになる。我々は正確にテロリストの居場所を把握する必要がある」と中佐は言う。
近未来の戦場ではAIやデータフュージョン技術が活用され、エッジコンピューティングでデータがリアルタイムで処理される。しかし、この地図アプリが用いられるのは戦場ではなく市街地だ。「テロリストは市民に紛れ込んでいる。彼らの脅威を食い止めるためには、正確に居場所を掴む必要がある」と中佐は話した。
イスラエル軍が開発した地図アプリは、グーグルストリートビューに機密情報をARでオーバーレイ表示するタイプのものだ。さらには、AIを使って過去のテロリストの戦術や技術を分析し、彼らの行動をリアルタイムで予測する。
表示される情報は諜報機関が入手した機密データであり、そのデータを使ってターゲットがどこに隠れているかを推測する。
この地図アプリでは、例えばバルコニーに鉄柵が設置されたマンションの3階がテロリストのアジトであり、出入りしている人物がテロリストである可能性が高いと表示される。また、その根拠もアプリ上に示される。「我々にとって重要なことは、テロリストだけを狙い、絶対に市民を巻き添えにしないことだ」と中佐は話す。
イスラエル軍は、この地図アプリの開発に約10年を費やした。管轄しているのは、イスラエルの諜報機関「アマン」傘下で地図や衛星画像、画像分析などビジュアルデータの解析を手掛ける「9900部隊」だ。アマンには、情報収集活動で有名な「8200部隊」も所属している。9900部隊は、高い分析スキルを持つ自閉症の若者だけを集めた部隊を創設したことでも話題になった。
今回開発された地図アプリは主にアンドロイド端末で利用されているが、双眼鏡や照準器に直接映し出すことも可能だ。「兵士たちは、情報源については知らないが、C2(コマンド・アンド・コントロール)システムを使ってリアルタイムで必要なデータを見ることができる」と中佐は話す。