「足りない」ままでいいのか 音楽の現場が模索すべきニューノーマル


「おうち時間」の延長上にあるライブ体験


こんなモヤモヤと向き合うこと自体がまたニューノーマルの一環なのだろうが、そんな曇った心を晴れさせてくれたのが、先述したイベントだった。
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7月以降に本格的なかたちで開催するためのプロトタイピングとして関係者とメディアのみを呼んで開催されたこのイベントは、『DRIVE IN AMBIENT』というタイトルの通り、ドライブイン式の会場でアンビエントミュージックを楽しむという趣旨のものだ。



ドライブイン型の音楽イベントはこのコロナ禍でヨーロッパなどではいち早く開催され、日本でもちらほらと見かけるようになってきた。車内からステージを眺め、FMトランスミッターから飛ばされた音を車内で聞く、または窓を開けてスピーカーの音を聞く。映画上映では昔からあったやり方を音楽ライブに応用することでソーシャルディスタンスを確保するわけだ。
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ドイツで開催されたドライブインのEDMパーティーの様子

ただドライブインの物珍しさだけであれば、わざわざ山形まで足を運ぶことはなかったと思う。田園風景を眺めながら車内でぼんやりアンビエントミュージックを聴く、という「無理のなさ」に惹かれるものを感じた。

ステージに向かって整列した車と、マスク姿の観客。この光景もまた新たな日常になるのだろうか。瞑想的なアンビエントミュージックと大自然の絶景は、内省的な「おうち時間」の延長上にあって、車内という肉体的には窮屈な環境で、心の内側での開放をもたらしてくれた。

ドライブインは目的ではなく手段


主催しているのは、2019年から『岩壁音楽祭』という音楽フェスティバルを開催してきた20代後半から30代前半のメンバーたちだ。今年も6月に本祭を開催予定だったが、コロナの影響で延期に。それに代わる形でなにかできないかと話し合った結果、『DRIVE IN AMBIENT』の開催に至った。


『岩壁音楽祭』主催メンバー

『岩壁音楽祭』の発起人である後藤桂太郎さんは、『DRIVE IN AMBIENT』に至るプロセスを次のように話してくれた。

「ドライブインで音楽を聴くということがどういうものなのか実地テストをしてみた結果、踊れない、思い切り楽しめないストレスを感じて、従来のものをドライブインにするだけでは全く楽しめない、通用しないと思いました。

そもそも、イベントを開催してもしばらくチケットは売れないし、主催者としてもどこか不安や罪悪感を抱えながらやることになる。コロナでなくなったイベントをどう復活させるか、というマインドになりがちですが、踊らず、声を出さなくても楽しめるイベントを新たに作れないか、という発想からアンビエントミュージックにフォーカスすることにしました」

主催メンバーの一人で、山形のローカルな音楽人脈と主催チームのパイプ役を担う菊地翼さんは、仕事の傍ら山形のクラブでDJパーティーを主宰してきた。そんな彼が、自粛期間を過ごすうちに、いつの間にかダンスミュージック と距離ができていたという。

「ダンスミュージックは、皆でお酒を飲んだりしながら聴きたい音楽なのであって、家にいて一人で聴きたくなるものではないのかも知れません。なので、アンビエントをやると聞いて、それは良いな、と思いました。おうち時間の延長として体験できるものになるんじゃないかと。

ドライブインは目的ではなくあくまで手段です。ドライブインで音楽聴こう、ではなく、みんなで集まってぼんやり瞑想でもしませんか、というイベントとして捉えてもらいたい」


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文=三木邦洋、編集=千野あきこ

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